リード先端をMP先端から少し下にセットする、って本当?

リードをマウスピースに取り付ける位置の上下。
 「リード先端をMP先端より少し下に」 
が定説っぽいですが、それは本当なのでしょうか?

幾つかの「考慮すべき点」を挙げて、
「貴方にとっては」それが本当なのか否か
を考えてもらう材料とします。

髪の毛の太さは人それぞれ

「髪の毛3本分だけ下げて」といった言い方をよく耳にします。
髪の毛の太さは人それぞれです。

そんな曖昧な基準を使いながらも、
「3本」
なんて、イカニモ具体的っぽい数字で、
モットモラシク、つまり、あたかも絶対的に正しいこと
っぽい、と人に信じ込ませる。

それは上手な詐欺の手法、、かもよ (^_^;
ま、
それは冗談半分ではありますが、以下、マヂメな分析を続けますね。
 

__追筆注釈__
「髪の毛1本分」ということも多いようですね。
その場合は本当に1本分という気持ではあるのでしょう。
が、
「3本分」と言った場合は、日本語の伝統的な比喩表現で、
「3」には「ほんの少し・わずかな・微細な・とるにたらない」
といった意味合いが乗るわけではあります。

つまり「髪の毛3本分」と聞いて「ほんの少し」と思うのが正解なのでしょう。
とはいえ、ナニを尺度に、どれくらいを丁度よいと思えばよいのか、
その点について判らないのは変わりませんね。

チップレールの幅

チップレール(MPのリード接触面の先端にある弧状に細い面)
の幅は、吹き心地・響き・音色に影響します。

一般的に…
 ・細いと、吹き応え軽やか、立ち上がり素早く、音色は明るくクッキリ。
 ・太いと、吹き応え重め、立ち上がりは鈍いが、音色は暗く柔らか。

細い場合は、リードを少しでも下げると簡単にスキマがあきます。
そうなると風音の雑音が大きくなるばかりか、力の無い響きとなり、息の無駄遣いも増えます。
つまり、リードを付ける位置上下の選択幅は極狭いわけですね。

 
太いと、リード先端を置く位置には選択肢の拡がりができます。
その場合、
先端同士を合わせると、
 ・チップオープニング(双方先端同士の成す距離=MPの開き幅)
 ・チップレール太さ、
…双方の性能を充分に活かす事となり、、
 ・MPを作った人が期待したとおりの呼気流入量 ≒ 音圧最大値の可能性
 ・作った人が期待したとおりの、チップレールの太さにかなった吹き心地
…となります。

リード先端を下ろすと、
チップオープニングは結果的に狭くなるので、
作った人が期待した最大音量よりは小さくなります。
チップレールには触れない部分ができるので、その幅は狭くなったことになります。
ところが、単純に細いレールと同じ結果にはならず、その手前に障害物があるので、モヤモヤとした吹き心地になります。

ちなみに、
堅すぎるリードは少し下げてつけると「とりあえず」使いやすくなります。オープニングが狭くなるわけで。
柔らかすぎるリードは少し飛び出すくらいにすると弾力を少しは上げられます。
そういった利用価値はありますが、音質も吹き心地も佳くなるとは言い難いので、本当に丁度よいリードがすぐ見つからない時の応急措置と思ったほうがよいでしょう。

さて、
手元に転がってたMP幾つかのチップレールを撮影してみました。

♪メイヤー
細いが細すぎるほどではない。
発音のスピードが期待されるジャンル向けなので、これくらいの細さで標準的なのでしょう。
ですが個体差も大きく、より太い個体もよく見かけます。

♪セルマー、S-80
職人に依るのか製造時期に依るのか、個体差の激しいモデル。
メイヤーのようにレールの境界線がクッキリしたものもあれば、この写真のようにモヤっと傾斜から平面に繋がるものもある。
更には、平面らしきものは認められず、クルンと丸まった(ロールオーヴァー型)チップのものすらよく見かける。
それだとリードがチップに触れるのは面ではなく極細い線状になります。
ウインドウは「U字型」に向けて「絞られた」形になっていて、メイヤーよりも面積は狭くなってます。
結果的にサイドレールは下に向かうにつれ太くなってます。

♪フレディ・グレゴリー
チップレールが特に細く精密に作られてる例ですね。
ウインドウもギリギリまでノビノビと大きく開かれ、サイドレールも細い。
これだと、先端同士を合わせるしかありませんね。

♪セルマー、ソロイスト
自分でリフェイス。
新品で入手したがフェイシングの一部が「ほぼ直線」で使い物にならなかった。
もう売り物にならないが、使い物にならぬ物を売るのも気味悪いので削った。
放物線を作り、チップレールもクッキリと細い平面を作った。
ウインドウの形は S-80 とほぼ同じで、元々はサイドレールも太めだったが、ボディー側面を削って細いレールに。
Theo Wanne さんに見せたら、もうイヂルとこはないって\(^O^)/
でもせっかくなので「明るさを足してみて」ってお願いしたら、バッフルに不思議な曲線を微妙に付けてくれて見事に音色が変わってビックリ。

♪ヤマハ 4C
太いチップレールの代表格、かと思いきや、そんなことはなかった。
これはたぶん 70年代後半のものと思われるが、見事に美しい造形。
細いチップと太いサイドのコントラストが特徴的。
当時、ナニを真似したのだろう?
それ以前の「日管」の影響の強い時代のもの(背中に細長い突起がありリガチャの回転止めになってる、Y-○○って型番の…)とは全く違う形。
現在の4Cはたぶん、、写真の頃のより個体差が激しい、、ように印象してます…(不確か、要取材)。
写真のはフェノール樹脂を射出鋳造しただけでなく、丁寧な手仕上げと見受けられます。

♪ESM Jazzテナー
高精度な射出ブランク(精密な仕上げを施す前のもの。とはいえ内部構造は精密に射出できてるので大した技術かと)を、精密コンピュータ旋盤でテーブル~フェイシングまでをガリガリと削ったもの。
吹き比べれば個体差はあるが、軒並み実用レベル以上という品質保持優秀なメーカー。
職人手仕事には殆ど頼らずに作ってるから安い。
クランポンのクラを買った時ついてくるMP、、見くびってはならぬ、なかなか佳いのです。
チップもサイドもレールは細からず太からず。
クラシカルなMPに比べれば充分に細いわけですが。

♪オットーリンク 昔のバリトン
見事に美しく細いっ!

♪ヴァンドーレン B45 ライヤー
おっ、やはりクラはチップレール太め、なのかな?

♪ヴァンドーレン B45
…と思いきや、これは猛烈に細いチップ。
○○周年記念だったか、誰かの名前つきモデルだから、その人の好みなのか、いつもより一生懸命作ったのか?
ちなみにクラシカルな奏者がよく使う B40, M30, M15 はウインドウ狭めでチップもサイドも太いですね。
5RV, M13, B46, B45 はチップが細いチームってことらしいです。

オープニング、作る人の意図は?

MPの性能表で表示される「オープニング」は、
リードとMPの先端同士をピタリと揃えた時の開きを測ったものです。

作る人は、どのようにリードをつけてもらうつもりで作るのでしょう?
時々は吹いてチェックしながら作るはずですが、
その時にはどのように付けてるでしょうか?

コノ位置に付けて!と思って作るのでしょうか?
あるいは、上下の融通を想定して作るものでしょうか?

そこら辺のことを、作る人に取材して回らねばならないと思ってます。

サイドレールの細さ ≒ ウインドウの大きさ

これはオマケの知識。

サイドレールが細いと、
吹き心地は軽やかでフレキシブル。
発音や操作への反応は速い。
ウインドウが広いと、音圧も大きく出しやすい。
悪く言うなら、じゃじゃ馬っぽくなります。
佳く言うなら、乗りこなす愉しみが深い、とも言えます。

サイドレールが太いと、
吹き心地は重ためで、音色も暗めになります。
反応は遅くなりがち。
ウインドウが狭いと、最大の音圧は小さめ。
悪く言うなら、鈍重。
佳く言うなら、散らからない=よくまとまった音で、重厚でシッカリとした、、かな?

…というのは、オマケの知識なのですが、、、

リードを付ける上下位置で、サイドレールの先端に近い辺り、
そのドコからドコが 有効 or 無効 か、、
それは結果の音に微妙に影響するはずです。

ほんの少しでしょうが、
サイドレールの形状とリードを付ける位置、その結果の音、
全く無関係とは言えないでしょう。

双方の先端形状の違いにより…

チップレールとリード先端、どちらも緩やかな弧を描きます。
その形が一致してれば、先端同士をピッタリ合わせるのは容易です。
ところが、
例えば、リードの方がより平坦に近い(弧の素の円の半径が大きい)と、
中央部分で先端同士を揃えると、左右でリードが飛び出します。

その場合、
左右の飛び出した辺りで、気流の乱れ、リード振動の不規則
などが生じ得るでしょう。

もちろん、
人によっては、それが起きてる時の吹き心地が「好み」ならば歓迎してよいのでしょう。

では、
左右で先端位置を揃えるとどうなるでしょう?
中央部分でリード先端は MP先端よりも下になります。
そこがレールから外れると「スキマ」問題が起こります。

リードよりも、MPの方が平坦なら、逆の問題が起こるわけですね。

下の写真だとパッと見には先端形状が合ってるように見えます

ですが、リード先端を MPに押しつけてみると微妙にズレるのが判ります。

メイヤーにリコー(オレンジ箱)のリードです。
リードのお尻はMPの中心部に置いてるので、MP先端短形状の左右不均等ですね。
更に↓

セルマーのソロイストにバンドレンJAVA。
より複雑な不一致が見てとれますね。

…なのですが、
チップレレール幅の中に収まっていれば大問題にはならないようです。

チップレールから脱線するほどズレると「スキマ」による問題が起きます。
とは言え、
それも人により好きずきですから、一概に「よくない」とは言いません。

MP の先端形状を変えるのは簡単なことではありません。
もし、双方の先端形状を揃えたければ、
MP の形に合ったリードカッターを見つけるか、作ってもらうか、
あるいはニッパーで丁寧な手作業をするか、、ですね。

現在入手しやすい範囲では、大抵のMPとリードで組み合わせて大問題になることはありませんけどね。

昔のクラリネットのマウスピースが影響?

というわけで、
現在のマウスピースは思いのほか高確率でチップレールが細め
すなわち、
リード取り付け上下位置の融通範囲 は狭い
わけですね。

もちろん、スキマや飛び出し の結果の吹き心地と音が好きなら、
それを活かして全く問題ありませんけどね。

では、なぜ、
「リード先端は MP先端より少し下げてつける」
が、定説として流布されているのでしょうか?

2つの理由を思いついてます。

1)
昔のクラリネットの MPの多くは、チップレールが太く、リードを少し下げて付けるものであったから。

20世紀初頭、サックスを教えたり、教本を書いたりする立場になる人の多くはクラ奏者でした。
その人達の、その当時の常識感が、
クラ界のみならず、サックス界にも流布され、
道具の形が変わった現在に至っても、
 「なぜ、そう言われるのか」
を省みられることなく、盲信の連続の結果として語り継がれている。

書籍を書く者も、編集者も、世の中の指導者と呼ばれる人達も、
権威的な事物への盲信の虜、、
って可能性があります、よ、ってな。

2)
目の錯覚の放置。

リード先端を MPに押しつけると、先端同士が揃ってるか否かが明らかになります。
ところが、
それをせずに目視して「ちょっと下~」とか言う人をよく見かけます。

リード先端と MP先端は、作られたオープニングのミリ数だけ、離れています。
ですので…、
 自分の目と MPとの上下位置関係、
 手に持った MPと自分の視線との角度、
それら次第で、先端同士が揃ってるかどうか、見え方は大きく変わります。

ある角度では揃ってるように見えても、
先端側を少しコチラに傾ければ、黒い MP先端が見えるので、
リード先端が少し下がったようにも思えます。

*揃ってるように、むしろリードが飛び出してすら見える写真

*角度を変えるだけで、リードが少し下がって見える写真

すぐ上の写真のような出来事を
「少し下げてつけましたよ」
と平気で言える人にけっこう会ってきました。

そんなイイカゲンさも、
根拠不明で曖昧な話を定説にしてしまう土壌なのではないでしょうか?

…というわけで、、

考慮できることを色々と並べてみました。
これらを材料としての
 「判断と使いこなし」
は、各自の自由です。けど…

○○先生がそう言ってたから
とか、
あの雑誌にそう書いてあったから
ではなく、

自分なりに快適と満足を求めて、
色々と実験するのが精神衛生的に健康なのだと思いますよ。
レッツエンジョイ(^^)/

 
**************

リードカッター、検索してみたら沢山の種類が通販で買えるのですね。
昔々は現物を見かけるのすら珍しかった。
伝統的な数千円の、バンドレンの超高級なの、中国製の数百円の…、
イイ時代になったもんですね~♪

<アルトサックス用>

<クラリネット用>

<テナーサックス用>

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