音階の起源と歴史については↓に書いたので、本稿ではその姿形と「各音高の呼び名」の話をします。
音階とは
音階とは、音楽に於いて
・複数の音高が寄り集い
・その全体の或いは各音の色彩感などを人に感じさせるもの
・複数種の音階が時系列上に並ぶと、色彩感のみならず緊張と解放といったエネルギー関係をも感じさせる
です。
ハーモニー(和声)とメロディー(旋律)の源泉となります。
そういった出来事が何故起こるのかについては近いうちに稿を改めてゆっくり書くつもりです。
オタノシミに(^^)/
五線譜と玉の関係…臨時記号、Cメイジャというモノサシ
音楽を書き留める方法として一般的な五線譜では、玉の高低位置で音高を表します。
五線の一番下の線に乗った玉の2つ下の音から上に向け1つずつ順番に音を8つ並べると、
Cメイジャースケール(ハ長調の音階)となります。
五線譜上に最も簡単に表せる音階です。
「最も簡単」とは、玉を書くだけで=臨時記号が不要、ということです。
つまり、五線譜表記の基準点はCメイジャーにあるわけですね(何故か、は一先ず置いておきますが)。
Cメイジャーに含まれない音高には臨時記号(♭・♯)を付けて表します。
西洋音楽では1オクターブに12種類の音高を扱うので、Cメイジャーで7音使ったから残るはあと5音ですね。
西洋音楽では一般的に、様々な形の音階を識別するためのモノサシとしてメロディックメイジャースケール(=いわゆる普通の長調=ドレミファソラシ、今後MMと略記)を基準とします。
つまり「MM という形と比べるとココとココが変わってる」といった形状比較の基準となるわけです。
中でもC音を中心音とする C MM を五線譜表記の中心としたわけですね。
(ジョージ・ラッセル先生のリディアンクロマチック理論では ド,レ,ミ,ファ#,ソ,ラ,シ が基準。)
(筆者の提唱するリディアンフラテッド7thクロマチック理論では ド,レ,ミ,ファ#,ソ,ラ,シ♭ が基準。)
さて、初心者が陥りやすい落とし穴があります。
五線に書かれた音の高さは「見た目通りに等間隔に並んではいない」ってことです。
解ってる人には単純なことですが、意外とそれが混乱の原因になったります。
それがどういうことか、を含め次項目でモノサシとなる音階の姿を更に深く観察しましょう。
階名_相対的な音の呼び名
さて、ここからは「音高の呼び名」の話です。
ドレミファソラシ という音高の呼び名は、各構成音の相対的な位置関係(周波数比)を表し、
ドの音高(周波数)がいずれであっても成立します。
喩えるなら(↓大小は段差の大きさ)
1段目_大_2段目_大_3段目_小_4段目_大_5段目_大_6段目_大_7段目_小_8段目
という形の階段があるとして、
1段目の標高が1cmの海岸でも 8000mのエベレスト山頂に運んでも階段全体の形は変わらないということ。
つまり ドレミファソラシ という音高の名付け方は「実際の高さ=周波数」に対して絶対的ではなく「相対的な音名」と言えますね。
ある一定の形の階段(段差が、全音 全音 半音 全音 全音 全音 半音)の各段に付けた名前なので「階名」と呼びます。
音名_周波数でなく五線に対して絶対的な呼び名
絶対的な音高表記をしたい時には CDEFGAB を使います。
絶対的とは、
「この周波数ならこの名前」
といった名付け方ということ。
「絶対的な音名」ですね。一般的には単に「音名」と呼びます。
ハ長調でもヘ長調でもロ短調でも、つまりキーがどこであれ、五線譜の下から2本目と3本目の間に玉があれば、その玉は「A」で、周波数は 440hz 辺りです。
移調楽器と移調譜
ただし、多くの管楽器などの「移調楽器」では「音名=玉の位置と周波数の関係」が移調しない楽器とは変わります。
移調楽器用に
「実音譜(A=440hz として書かれた譜面)とは玉の位置をズラして書かれた」譜面を
「移調譜」と呼びます。
(移調楽器、ナニ?ナゼ?については別箇所に丁寧な説明を書けたらリンクを貼りますね)
それも含めて一般化するならば、音名とは、
「五線譜の何処に玉があるか、を直接的に指し示す」
です。
つまり上述の「この周波数なら…」は「音名」の説明として不適切なので前言撤回します。
同じA音でも階名では、
ハ長調ならA音はラ
ヘ長調ならA音はミ
ロ短調ならA音は、機能和声的にはソ、旋法的にはシ♭
となります。
(機能和声的・旋法的 という言葉については、別箇所に丁寧な説明を書けたらリンクを貼りますね)
(この箇所、後日に誤記訂正をしました。最初は「旋法的にはシ」と書きましたが単純な誤記にて「旋法的にはシ♭」と直しました。コメント欄にて御指摘を頂き有難うございました m(_ _)m )
音高の調に対する働きを示す名前
ドレミ… の各音にはそれぞれに固有の働き(音楽的意味合いとかエネルギーの孕み方)があり、それに応じた名付けもあります。
主音、属音、下属音、導音、下中音、上中音、上主音、などなど。
機能和声的音楽に於ける各音の働きに準じて付けられた呼称です。
その詳細は他稿に譲るとして軽く紹介のみにしておきます。
ちなみに、
!!ここで登場した「絶対」という単語は、絶対音感の絶対とは無関係です!!
で、本稿では、絶対音感・相対音感 については全く触れません。
、、、と書いておかないと意外と誤解を生むものなので。
さて、本題に戻ります。
移動ドと固定ド
移動ド唱法・固定ド唱法という言葉があります。
メロディーを唄う際に ドレミ… を歌詞として使って旋律認識を整理する行いを「ソルミゼイション」と呼びます。
その際に ドレミ… がナニを意味するか、に2種類あるわけです。
前者は「音名・階名」を使い分ける方式。
後者はキーがナニであれ CDE… =ドレミ… と呼ぶ方式。
「キーがナニであれ」とは…
移動ド唱法では、
Cメイジャ、ハ長調で C音=階名ではド
Fメイジャ、ヘ長調で C音=階名ではソ
Dメイジャ、二長調で C音=階名ではシ♭
Bメイジャ、ロ長調で C音=階名ではレ♭
と呼び分けるが、固定ド唱法では、
Cメイジャ、ハ長調で C音=片仮名で言えばド
Fメイジャ、ヘ長調で C音=片仮名で言えばド
Dメイジャ、二長調で C音=片仮名で言えばド
Bメイジャ、ロ長調で C音=片仮名で言えばド
となります。
移動ド唱法では音名と階名の関係によって、キー(調)はナニか、主人公の音がナニであるか、各音の音楽的意味などが一目瞭然です。
歌いながら音楽的意味合いの情報も理解・整理が並行して進みます。
つまり、メロディーを唄うだけなのに、背景にあるハーモニーなどもゾロリと頭の中に湧き出しながら歌うことになります。
(もちろん、そうなるまでに知識蓄積と練習の時間は必要ですけど)
固定ド唱法では ドレミ… の歌詞にそういった音楽的意味合いの情報は乗っかりません。
物理的にどの高さにあるかを示すものなので ABC… と働きは同じ。
なので「片仮名で言えば、アルファベットで言えば」となるわけです。
もちろん、脳味噌の別の部分で音楽的意味合い情報を分析・理解し、表現に活かせれば事足りるわけですから、さほど困ることでもありません。
とはいえ、移動ドを身に付けた人なら2箇所の脳味噌を「同時であれ、時間差があるとしても」使わずに済みます。
ただし移動ドは身につけるのに「予め」時間と手間はかかります。
どっちの手間 or 便利を選ぶか、なわけで、どっちを選ぶ人が居ても誰も困りません。
ただし、双方がコミュニケイトする時には必ず「思い遣り」は必要です。
移動ドの人なら固定ド式の歌い方もできるはずなので、移動ドの人が親切にしてあげる気持を持てるなら平和なのかと。
移動ドの皆さん、どうかその思い遣りを大切にしましょうね。
ドレミはイタリア語でABCはドイツ語か英語、、だと?! っふざけるなってばよ(笑
ちなみに、ドレミ… と ABC… 2種類の呼び名が「ナゼ在るの?」
と問えば固定ドの人だと「英語とイタリア語の違い」と答えることに。
よく目にすることですが、ここまで読んでいただいた方にはそれが間違いだと判りますよね。
ちなみに、ABC を エイビースゥィーなら英語、アーベーツェーならドイツ語、
アベセならフランス語… なら間違いありません。
ドレミ は何語でも ドレミ です。
( MM の第7音シ だけは文化圏と用法次第でバリエイションありますけどね)
ちなみにフランス・イタリアなどラテン語圏では、ドレミを音名として使うのが広範囲に定着してるようですね。
使い分けなんてメンドクセイヤ式のラテン的合理性なのでしょう。
なので、
日本にもその方式が定着したのは、イタリア式歌唱指導と、歌唱指導講師がソルフェージュ講師も兼任したケースが多い、のに起因するんだろうな。
音高のニューメラル(数字)表記
ドレミファソラシを数字の 1234567 に置き換えて、分析の場面で活用したりします。
ローマ数字とアラビア数字を必要に応じて使い分けたりもします。
(後日追記。↑の使い分けについて詳しく↓に書いたので御参照ください)
(追記ここまで、本文に戻ります)
分析の場面で、Do, Re, Mi … に添えて複数の文字を書き連ねる煩雑を避けるのみならず、
移動ド・固定ド間の障壁を取り除くためでしょう。
固定ドの人にとってドレミファソラシドは Cメイジャーに於いてのみメイジャースケールを表します。
それ以外のキーでは簡単に混乱の基となるからです。
音階の1つめの音2つ目の音… という方式なら混乱しようがありませんから。
1234567
はそのままメイジャースケールを表し、必要に応じて♭・♯を付けます。
ここでもモノサシの目盛はメイジャースケールなわけですね。
…というわけで、音階の基本的な姿形とその「各音の呼び名」について概説しました。
世の中の認識混濁が招く不機嫌の回避に役立てば幸いです。
(本稿は 2009-07-09 にFacebookに書いたものの清書再掲です。)
コメント
>ロ短調ならAの音は、機能和声的にはソ、旋法的にはシ
>となります。
これ、Aがソになるのは、音楽の授業で習った通りなのでクリアです。音楽の授業では、ロ短調とは、ロ音をラにして短調で唄えという意味だと習ったと思います。ロ音(B)がラなので、Aがソになる。これはLa-Based Minorと言うらしい。
一方、Aの音がシになる というのはよくわからないのですが、これは言い換えると、ラ♯/シ♭(チとかLiとかTeと読むやり方もあるらしい)ということでしょうか? Do-Based Minorだと短調でも主音がドらしいので、Bがド、A♯/B♭がシ、Aはシ♭。
Scheveningen さん、コメントありがとうございます!
結論から言いますと、その点は私の誤記です。
Do-Based Minor つまりこのページの文脈で言う所の「旋法的な移動ド唱法」では、ロ短調にて A音は「シ♭」、バークリーで使ってるような 12音階的移動ド唱法では「テ」ですね。
あれを書いた時、頭の中で「変ロ短調」に誤変換が起こってました。
なので、誤謬訂正の履歴が判るようにしつつ訂正を書き足しますね。
御指摘、本当に助かります、有難うございます。
ちなみに、
B がドの時、A# はシですが、Bb は ド♭ と呼ぶのが厳密な移動ド唱法です。
その時、A は シ♭ ですが、ラ# と呼べるのは G×(ダブルシャープ)です。
それが何故なのかは、そのうち移動ド唱法についてゆっくり説明する機会を持ちたいと思います。
もう1つちなみに、
Do-Based Minor は様態を示す名前
旋法的移動ド(modal movable Do) は理由を表す名前
ですね。
今後とも引き続き気兼ねなく御質問をお寄せ頂けると嬉しいです。
よろしくお願いします。