サックスとかクラリネットのリードの話です。
ヘタったリードを使い続けると
「悪い癖がつくから良くない」
とよく耳にしますが
「こんな癖がね…」って説明はなかなか見当たりませんね。
自分の経験をメモ書きします。
なぜリードを早めに替える?
鳴ってるからといって1枚のリードをいつまでも使い続けてませんか?
自分も若い頃はそうでした。
今では寿命を見極めて新品に変えるようにしてます。
ヘタりつつあるリードに「徐々に」起こる現象に、
身体操作を「徐々に」対処し変化させ続けた結果、
その楽器本来の快適に鳴らせる状態に、身体が戻りにくくなるからです。
とはいえ、
割れても欠けてもいず、
とりあえず鳴りはするリードを捨ててしまうのはなんとなく惜しい。
なにかしら利用価値があるかもしれない、、
と思い結構な量を備蓄してます。
なのですが、
結局それらは何年も使われずじまいです。
アクセサリーに仕立ててメルカリで売る人も居ますけどね。
それもしないならヘタったリードは捨てるのが健全なのでしょう。
、、、各自の貧乏性とのバランスで如何様にでも(^_^;
リードがイキイキしてる状態とは
新品のリードが新品である価値とは「弾力」です。
当たり前ですけどね。
使い続けるうちに、細胞が堅く脆く(もろく)なり細胞同士の繋がりも希薄となり弾力が失われます。
そうなると寿命なわけですが、ナニがどう変化するのでしょうか?
新品の弾力がナニに支えられてるか、の研究結果が↓に載ってます。
京都大学を経て筑波大学で教えていらっしゃる木材の専門家・小幡谷栄一先生の研究結果を見られます。
🎼 トップページ『木質材料工学研究室』
http://www.u.tsukuba.ac.jp/~obataya.eiichi.fu/
🎼『演奏者向け情報』
http://www.u.tsukuba.ac.jp/~obataya.eiichi.fu/musicians.html
↑には、葦とリードについて研究結果からの学術的知識が平明な言葉で沢山つづられています。
素晴らしい内容です!
弾力の素は主に「維管束」というストロー数本をシッカリ束ねた堅くて細長い仕組みなのですね。
その周辺に細胞が取り巻いて葦全体を組み上げてます。
リードを光に透かすと見える「スジ」あれが維管束ですね。
興味深いのは…
葦はブドウ糖などの水溶性糖分を多く含み、それが溶脱するにつれ音色が硬くなるという話。
おまけに、リガチュアで締め続けることによる変形も起こりやすくなるそうです。
糖分が溶脱した葦は、乾燥状態での硬さが減るそうです。
濡れてる間、リードは柔らかいものですが、いったん糖が溶脱したものは乾かしても硬さが戻らないそうです。
演奏中水浸しになる薄い先端部分は、すぐに柔らかくなります。
ところがハート部分は濡れないので糖は溶脱せず、硬さを保つようです。
つまり、ハート部分の糖がリード全体の弾力具合を決めるようですね。
リード全体を水浸しにすると、ハート部分の糖分が溶け出し、そこも柔らかくなるので、全体の振動の仕方は変わるようです。
それがイヤなら水浸しにするなってことですね。
或いは「もうちょっと動いてくれたらイイのに」ってリードは、水浸しにしてみると良いかもしれませんね。
🎼 糖の溶脱・硬さと振動吸収性の変化・弾性と音色への影響のページはシビれます↓
http://www.u.tsukuba.ac.jp/~obataya.eiichi.fu/musicians/01_arundo4_damping.html
葦ではない木材でリードを作る研究
葦は不均質(殊に維管束の分布に於いて)で、湿度変化に対して非常に不安定な素材。
日本では適した葦を育てられないので高価。
この島で育つ木材をリードにできないか。
杉・檜・赤エゾマツといった針葉樹や桐などで作ったリードは、なかなかイケてるそうだ。
葦と比べて維管束の分布具合など均質性が高いので。
と、
プラスチックは、どの方向にも力学的性格が一様だが、木質は「方向性」を持ってるから。
それは葦がリードとして巧く機能する大切なポイントみたいです。
やはり湿度への不安定性は高いので、耐久性向上も兼ねて「アセチル化処理」をするらしい。
簡単に言うと、酢酸で細胞の中を埋めるようなことだそうで。
葦にとっての糖分の代わりとなるのでしょうね。
そんな研究も小幡谷先生はしてます。
2007年の段階で手軽にアセチル化できる技術は完成し、
形状についてテストを繰り返していたようです。
色んな楽器に使われる希少木材と森の保護と、
楽器の安価な供給を実現する、という志に基づく研究。
現在どうなってるか、ぜひ訊ねてみたいものです。
あっ。現在もバリバリ研究進行中な御様子を研究室サイトで観られました。
なんとかしてお話を伺ってみたいものです。
*詳しくは↓
『国産木材を使った木管楽器材料の可能性』2007年・小幡谷栄一
http://sound-zaidan.workarea.jp/s23oba.pdf
ついでに、リードとはどういうものか、
ヘタるとはどういうことか、
葦とプラスティックはどう違うか、
等々、小幡谷先生の平明な説明文書。
http://www.u.tsukuba.ac.jp/~obataya.eiichi.fu/musicians/01_reed.pdf
葦の対湿度変化不安定性
一旦湿ったリードは乾くときに細胞が縮み、また湿ると膨らみます。
それを繰りかえすとリード裏側の平面は膨れ上がります。
なるほど、リードケースに仕舞う理由ですね。
一旦湿ったリードはその寿命の間、二度と乾かさないという人が居るのも理解できますね。
裏側以上によく体験するのは先端部のタワミですね。
いったん濡れてから乾いたリードをまた濡らすと、先端が波打つことがありますね。
維管束の所でピョコっと「くの字」に折れ曲がるのもよく見かけます。
普通に音を出せなくなります。
昨日はとても良いリードだったのに、、って残念に思いますよね。
変な音でも諦めずにしばらく鳴らしてみましょう。
大抵の場合、鳴らしながら湿らせると、やがて真っ直ぐに戻ります。
時々どうしても戻らないこともあります。
そんな時は3秒ほど空を見上げてから目をつぶり、
ゴメンネーと小声で言ってからポキっと折りましょう。
そこで泣いていただけると尚佳しかと。
貧乏性的にはそこで折らずに「夏になったら使えるかも」と備蓄箱に入れますが、、、
夏になる前にカビてたりします(泣。
長持ちさせられる?
諸説紛々ですね。
a)演奏後はリードケースに仕舞う
b)数枚を交代交代で使う、つまり休ませながら
c)長持ちするように「鍛える」
d)無駄に鳴らさない
…などなど。
a)
悪くないと思います。ゆっくり乾く間、裏面の平面を保てるので。
ただし、演奏直前に急に濡らすわけで、その時に波打ったりします。
なので、
a1、
いったん濡れたリードは、平面を保ちつつ絶対に乾かさないような保存をする
a2、
平面を保ちつつ乾かしたリードは、平面を保ちつつゆっくりと濡らし直す
a3、
上述とおり、しばらく変な音でも復活を信じて鳴らしてみる
…といった工夫あるいは根性が必要でしょう。
(そういった作戦に有効そうな道具の数々へのリンクを後日ここに貼りますね)
*************
告白します。
筆者は佳い感じで使えてるリードがあったら演奏後、軽く水洗いし、マウスピースに付け直してキャップしてケースにポンっです。
次に使う時、乾ききってると波打ちを起こします。が、
大抵は乾ききる前にまた使うのでガッカリすることは少ないです。
マウスピースの先端よりかなり下に下げて、リガチャは緩めにしときます。
いつもの位置に置いてキツク締めると、リード裏側にMPのウインドウの痕がクッキリ残ります。凸凹しちゃうわけ。
それを避けるためです。
それでも裏面の凸凹が気になる時の為に、紙ヤスリを持ち歩いてたこともありますが、、、吹き始めて数分もすればそんな凸凹は平らになっちゃうみたいです。
オマジナイとして、リードの裏面をMPの平らなとこでギュギュッとこすって、平らになったぞ、と信じ込むってぇのも時々します。
それってクラの人だと時々やってるの見かけます。サックスの人では滅多に居ませんね。
乾燥について。
以前はキャップ先端の穴をガムテープで閉じたり、濡れたリード付きMPをジップロックに入れたりしましたが、、、ケースの中に居ればカラッカラに乾きはしないし、、数分吹けば気にならなくなるし(^_^;
むしろ、カビの心配するよか、細かいこたぁ気にしない、吹きゃ平らになるし、ちょいとカビ生えても時々ガッツリ掃除してやればいいさ、、って位が精神衛生上よいみたいです。
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b)
経験上、、結局は使える合計時間は変わらない、、んじゃないかな~?
c)
水浸しにする~平らに乾かす
を繰りかえすとカチカチになって長持ちする
って見かけますが、小幡谷先生の言うことを信ずる限りそのプロセスは、
「堅すぎて鳴らせないリードを使えるようにする」
には有効なのでしょうね。
もともと分厚いから長持ちはしそうですね。
糖分の溶脱で音質は堅くなるから、それで「堅くなった」と思い込みやすいのかもしれませんね。
ってことは小幡谷先生も書いてましたね。
d)
バリトンサックスのリードは高いです。
なので、リハの合間とか無駄に鳴らさないようにします。
ジックリと練習したい時には樹脂リードで我慢します。
これは確実に長持ちを実現してくれます。
が、
ある日、本番中に突然ペケになったりって危険もあるので、
使えるリードは何枚かスタンバイしとくとよいでしょう。
新品のリードはいきなり長時間使わない
昔から言われてることではありますが、
10年くらい前から切実に本当のことと思えるようになりました。
何故でしょうか?
素材自体の変化なのかしら?
地球が元気無くなってきたのかな?
昔より精度と均一性は増したようだけど、
加工過程になにか原因があるのかしら?
バンドーレンは小袋入りになったけど、生乾きっぽくなる?
だとしたら他のメーカーもビニールでキャラメル包装するようになったのも同様なんだろな。
昔は紙箱に直接、裸で入ってたからな~。
とは言え、
それがどうして新品の保ち具合に影響するんかな?
とにかく謎ではあります。
試しに、新品を箱から出したら、しばらく乾いた外気に触れさせて、それから、1枚1枚、取っ替え引っ替え「慣らし運転」をしてから、リードケースに入れて持ち歩く。
そんな実験する甲斐はあるかもしれませんね。
そうそう、新品のうちにこそできること。
ハート部分ね、ナナメになってるとこ。
つまりそこはストロー状繊維の断面が見えやすくなってる。
機械で削りっぱなしだと沢山の穴が剥き出しになってるわけ。
「ハート部分には水分を入れず、糖分の溶脱を防ぐぞ」
と思ったら、その穴を塞ぐような向きに爪でキュキュッとこすってあげる。
この方法こそ、長持ちさせる方法のコーナーに書いておくべきでしたね(^_^;
せっかくそれをしても、水にポチャンと漬け込んだら台無しですけどね♪
リードがヘタると何が起こる?
解りやすい出来事を3つ並べてみます。
1)音程バランスが崩れる
ヘタったリードは、
短いとこ(指を押さえる数が少ない辺り)の音高がブラ下がり、
長い方(指を沢山押さえてる辺り)は上ずる、
って傾向があります。
2)息通りが悪くなる
音が鳴っている間リードは、
「真っ平ら~MPにピッタリくっつく」
という往復運動をしています。
弾力が弱くなると、真っ平らまで戻らなくなります。
元気な時よりも開口部が狭くなるので、呼気に対する抵抗が高まります。
単に、息苦しいだけでなく、
ダイナミックレンジ(音量の大小の幅)は狭くなり、
その行き来操作のスムーズさも失われます。
ピアニッシモを佳い音色で発音するのは難しくなり、
大きな音を出そうとすると「音の姿」が破綻しやすかったり、
ポ~っとしたツマラナイ音色になりがちです。
3)音色と響きのイキイキさが減る
高次倍音の成分(シャリンとした成分)が減り、
モソモソと暗い音色で、表情の幅と、音高の輪郭も乏しくなります。
本番直前には替えない
ヘタったリードを「なんとか鳴らしてる」状態だと、
音色はともかく音程の操作が、元気な時とは随分変わります。
・短い辺りは持ち上げ
・長い辺りは下げる
…ような操作をする必要が起きます。
元気な時から使い続けてると、ジワジワとその状態に変わるので、
その変化には気付きにくいものです。
新品に変えると音程バランスの違いに驚くものです。
なので、
本番間際に新品に変えると、
ヘタったリードの時の記憶(=ついたクセ)が演奏中に影響を与えます。
・短い辺りは上ずらせ、
・長い辺りはブラ下げ
…てしまいがちです。
判っちゃいるのに身体が勝手にそうなりがち。
なので、
新品に変えたら、少なくとも30分位は、
そのリードで音程に気を付けつつウォーミングアップしてから本番に臨みたいものです。
サウンドチェックの時とガラリと音圧が変わる危険もあるので、
リハーサル中から本番で使うつもりのリードを使うのはエチケットでもあるのでしょうね。
弾力を失ったリードは復活できる?
熱湯で湯がくと良い、
という説を耳にしますね。
確かに少し復活する感じはありますが、短時間でダメになります。
想像に過ぎませんが、、
繊維に染みこんだ唾や小さな汚れなどが、リードの動きに抵抗となっている。
それが洗い出されて、動きが良くなる。
ところが既に、弾力を支える繊維自体は堅くなり、繊維達のツナガリもホグレてるので、新品のような弾力は発揮できない。
逆に、染みこんだ唾などが辛うじて組織を繋ぎ止めてた可能性もあるかもしれない。
そんなわけで、一瞬は復活したように感じるのでしょうね。
小幡谷先生の研究では糖分がキモでした。
それに関わると思われますが、
洗ってから蜂蜜やブドウ糖水溶液にゆっくり漬け込むと復活する、って説も聞きます。
それはやってみたことありませんが、復活したら面白いですね。
とはいえ、繊維自体とツナガリは脆くなってるので新品同様とは行かないでしょうが。
と、、カビやすくなりそう(^_^;
ちなみに、ちょっとだけ吹いたリード、つまり糖分の溶脱が起こってないけど湿ったリード、もカビやすいですね。
リードケース、保存中にオゾンと紫外線照射してカビを防いでくれるってハイテク商品を見かけました。
カビと出会いやすい人は試す甲斐あるかもしれませんね。
↓これこれっ! どうやらシルバースタインのブランドでこの倍くらいの値段で出てるものらしい。下請けの工場から横流し的に…って品物かしら?
ん、、殺菌だけでなく、リードを活性化させて復活!、、なんて書いてある。。。とにかくそう書いてある。。誰か人柱になって効果のほどを御報告ねがいますm(_ _)m (笑
以前、漬け込むと復活するという薬品が売られていました。
あれはナニだったんでしょうか?
なにかしら繊維に染みこんで、モロくなった組織全体を支えつつ弾力も高めるような薬だとしら有効かもしれませんね。
とはいえ、それを使い続けてる人を見かけないので劇的効果ではなかったのでしょうね。
プラスチックリードだってヘタる
合成樹脂で作られたリードも不死身ではありません。
長く使っているとやはりヘタります。
筆者はクラリネットでレジェールのヨーロピアンカットを使ってます。
最初は少し硬めと感じるものでも、毎日吹いてると半月も経てば使いやすくなります。
身体も適応するんでしょうけどね。
2ヶ月もするとかなりモソモソした吹き心地でボンヤリした響きになります。
音程バランスとアンブシュア状態との関係に注意しながら、
「無理矢理なんとか使えてしまってる」
という状態に陥らないよう気を付けたいものです。
というわけで、
冒頭の「悪い癖」とは、
・妙な音程バランスを要らぬ操作で無理矢理なんとかしてしまう
・狭いダイナミックレンジと音色の幅の中に演奏表現をおさめてしまう
…そういったことなのでしょう。
リードは寿命が来る前に取替え、
楽器と身体の本来の性能を活かせる状態で練習&演奏する習慣
は、よい演奏と上達に効果的なんだと思います。
とはいえ、、なかなか贅沢はできないんで痛し痒しですけどね~ (^_^;
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