モニターとは?編_イヤモニのイヤーピース探し旅-2/6

連載第2弾。
今回は「モニターってなに?」がテーマ。
、、なかなか IEM のイヤーピースに辿り着きませんが悪しからず m(_ _)m
当連載の前回1回目は↓

モニターとは_リスニング用・モニタリング用

スピーカーなど電気信号を音に変える装置群のうち、演奏家・音響エンジニアあるいはオーディオマニアの必要を満たすような一角がモニターと呼ばれます。

電子音響出力装置の代表はスピーカーですね。
それを耳元にくっつけて、音が外に漏れない & 周囲の雑音に煩わされなくしたのがヘッドフォン。
それを小型にして耳穴に突っ込むようにしたのがイヤフォン。

それらは大雑把に「リスニング用」と「モニタリング用」に分けられます。
前者は音楽鑑賞用。
後者は音楽制作や演奏をする人向けで、音楽に含まれる音の出来事を仔細に聴きわけられます。

町内放送用設備も含め拡声装置としての「PA用」ってジャンルもあるけど、本稿では深追いしないことにします。

_リスニング用_

ざっくり言うとソレは「楽器」です。
スピーカーもヘッドフォンもイヤフォンでも。

音楽をより気持ちよく・愉しく聴けるような性能を求めて開発されます。
つまり、ナニが「気持ちよい」か「愉しい」か、主観により製品結果は様々。

組み合わせるオーディオ装置群や部屋との相性でも聞こえかたは変わるので、オーディオマニアの実験的興味を刺激し続けるアイテムの1つ。

_モニタリング用_

まずはスピーカーの話から…
もともとはモニタリング用なんてのは無かったはずで、スピーカーはスピーカーでしか無かったかと。

とはいえ、ステージ用には客席向け、演奏者向けいずれとも特に「堅牢」なのが早い内から作られたようです。屋外使用向けも単なる拡声以上に風雨に負けない仕様が要りますね。

さて、録音スタジオ用としては、
 1)集音中あるいは録音された音をゾロっとそのまま聴くため
 2)家庭での聞こえ方を確認するため
に「とにかくスピーカー」であればよかったようです。
勿論それぞれの目的の為に選ばれた人気機種、JBLALTEC など有ったわけですが。

↑の2)のうち、家庭用として売り出されたのに期せずして世界中のスタジオで大ヒットしたのが 1977年に出たヤマハの NS-10M。いわゆるテンモニ。

長らく愛用され続けたが、白いスピーカーコーン(針葉樹林系パルプから作ったケントみたいな振動板)の材料入手困難で 2001年初頭に生産終了。
その登場こそがモニタリング用ってジャンルを拓いたと言えるでしょう。
詳しくは後ほど。

さて本題…
モニターには録音スタジオ用とステージ用とがあります。

録音スタジオ用モニター、ラージとニア、NS-10M、テンモニ

…のうち、調整室で使われるもの_
録音スタジオの調整室(エンジニア側)用にはラージモニターとニアフィールドモニター(スモールモニター)とが有ります。

ラージは、
演奏の行われてる防音室の中の音を録音エンジニアに「できるだけありのままに」伝えるようなもの。
低音域を生々しく再現するために巨大なウーファー(低音域用スピーカーユニット)が要るので空き巣には盗めないサイズ。壁の中に組み込まれてたりもします。

どこのスタジオだったか…? ロボットの顔みたい!と思って撮った写真。
長方形の口はホーンツイーター、エクボの穴はバックロードホーンの出口だろうか?
ウーファー径は50cmあまり、か?

ニアは、
もともとは家庭での聴感を確かめるためのものですが、
小さなスピーカーの性能向上に伴って、録音結果中の「粗探し(あらさがし)」用ともなりました。
タイミング・音色・ピッチ・音圧の差や変化・定位感…などなど細かな出来事を観察しやすい性能が期待されます。
よく言うなら、ミックス芸術の精緻を究める道具と言えるでしょう。

ラージは、調整室全体を鳴らすようなもので部屋のどこに居ても割と満足に聞けます。

ニアは小さめなブックシェルフタイプで、エンジニアから1~2mの位置に置かれます。
爆音で鳴らさずとも細かな出来事を観察しやすいものです。
家庭で聴くのと似たような環境とも言えますが、粗探ししやすいような性能のものが選ばれます。

さて、ニアの代表格、
多くのスタジオで長年使われてるヤマハの NS-10M シリーズ。

テンモニの最終型、NS-10M X

もともと家庭用に作られましたが、その応答特性と聴きわけ易さから世界中の録音スタジオの多くに選ばれました。

白くて堅い独特なコーン紙の瞬発力
(=電気信号にかなり忠実な、動き始めの反応の速さと無駄な余韻の少ない制動力)
は唯一無二な性能を誇ります。
反応の良さは発音の形のみならず、正確な楽器音色再現と余韻の聴きわけ易さにも活きてるようです。

もう作られてませんが中古の取引は盛んで、修理する人も重宝されてます。
1977~2001年、そんなに長く世界中で愛され続けた日本製オーディオ機器は珍しいでしょう。

「NS」はナチュラルサウンドの略。1950〜60年代にエレクトーン向けに開発されたスピーカーユニットを1967年にHiFiオーディオ用に転用したのがルーツのシリーズ名。
ピアノの天板を模した独特な形の振動板が面白い。

その歴史詳細は…
https://jp.yamaha.com/products/contents/audio_visual/hifi_components/hifi-history/speaker/index.html
↑各写真をクリックすると味わい深い説明を読めます。

10Mの直接な前身は3Way(高中低音域3つのスピーカユニットを有する)の NS-1000M
今見れば大きいが当時としては家庭用の標準サイズ。

家庭用としてあまり有る高性能に北欧各国の国営放送局がモニターとして採用してからヒット。
けど一般家庭には高価なものでした。
そこでそのファッションを引き継ぎつつ、小さな部屋でも使いやすいサイズとヤングにも買いやすい値段で、と開発されたのが NS-10M。

BigBen ってニックネームで、ロンドンのビッグベン時計台と英字新聞をビジュアルイメージに売り出された。
それまで無かった黒い箱に白いウーファーの見た目は本当にカッコよく見えた。
けど、当時中学生の筆者には左右セットで5万円は高すぎた(遠い目)。

最初は家庭向けのショボイ奴なつもりでスタジオに持ち込んだエンジニア達。
「ショボくないじゃん!、家庭での音ってか、それ以上になんか便利な奴が居る!」
ってことで世界中のスタジオに広まったそうで。

録った音をさほど味付けなく素直に再現し、細かな出来事も聴きわけやすい。
ミックス作業の仕上げを細かく究めるのに最良の道具。
もはや家庭でのショボい音を確かめるのとは一線を画した性能。
応答特性(反応性とか過渡応答性とも言う)が特に優れていたからなようです。
その点あとで詳しく書きます。

テンモニの登場以来各社は、そういった機能を求めてリスニング用とは別に開発するようになった。
それがモニタリング用って商品ジャンルと市場を開拓したのでしょう。

90年代以降、スタジオ用として沢山の高性能なブックシェルフ型スピーカーが世に出てますが「テンモニ」の魅力は薄れず、未だに使い続けてるスタジオは多い。

、、テンモニについて詳しく解りやすいサイト↓
http://analog-to-digital.seesaa.net/article/437461923.html

、、音響特性については↓
https://audio-seion.com/ns-10m-measure/

、、超マニアックな…↓
http://www.ns-10m.com/

テンモニは「色づけの無い音」ってよく聞くけど、そんなこたない。
確かに可聴帯域を通してだいぶフラットだが、中域に少し「盛った」とこがあり、それがヴォーカルの存在感や輪郭感に繋がってるようです。
150Hz 辺り以下の低音域は、出てないわけではないが物足りなさは感じます。
ですが
「切れのよさ=ユニット振動板の制動力高さ」
と相まって全体の明瞭度を上げてます。
特に、低音楽器の音色の掴みやすさは素晴らしい。
「濁りが少なく、音切れも良く、タイトな低音域」
と言われるとこですね。
で、で、
なによりも「ケント紙を弾いたような紙の響き」はします。
慣れちゃえばなんとも思わないでしょうが、気になるとイケナイとこですね。

さて話を戻します。

粗探し用にはもちろんヘッドフォンも使われます。
やはりリスニング用とは違った「聴きわけ易さ」が重視されます。

ソニーの MDR-CD900ST が事実上の世界標準。
必要充分にして軽くて長時間でも疲れにくいからでしょう。

MDR-CD900ST

1980年代初頭からのCD時代に業界を支えてきましたが、ハイレゾ時代の必要に応えるべく MDR-M1ST が登場しジワジワと世代交代が進む、、かもしれません。
(↓のイヤーパッド、厚めのに交換済、標準のは着け心地いいけど薄くて耳たぶ痛くなっちゃうんで。音だいぶ変わっちゃいますけど…)

MDR-M1ST

ステージ用 IEM の進化に伴い IEM を愛用するエンジニアもチラホラ居るようです。

ラージ・ニア・ヘッドフォン・IEM の他に、昔はラジカセ・今はスマホも最終確認に使われます。
リスナーと同じ環境でミックス結果を確かめるために。
マスタリング結果を確かめる時にこそ大切ですが、ミックスダウンを終えた時でもマスタリングに渡してよいレベルかどうかは判り易いので。

…演奏者が使うもの_
金魚鉢(調整卓の向こう側の演奏場所)の中で奏者(歌手も含め)が使うモニター装置は主にヘッドフォンです。
そこでも MDR-CD900ST はほぼ支配的。
ですが筆者は、長時間の録音だと 900ST の殺伐とした音には疲れやすいので、リスニング用の MDR-1A シリーズを持ち込むことが多いです。

現行機種 MDR-1AM2 と 初代 MDR-1R

そこでもやはり IEM を選ぶ奏者が増えてるようです。
ツアー仕事の多い人だとその方が慣れてるからでしょう。

生楽器だとそれら「外に音が漏れないモニター装置」が必須ですが、電気楽器の人だと調整室でスピーカーの音に合わせて演奏することもあります。

ステージ用モニター、補聴器

ステージ用モニターとは、
広いステージ上で、離れた演奏者同士の音を聴くためのモニタリングシステム末端の発音装置。

録音スタジオとは違い、ステージ上の演奏者の周りは色んな音に溢れかえってます。
生音の音圧がドラムセット以上な楽器が幾つか舞台上に居ると
「聴きたい音を聴く」のが自然にはできなくなります。

それを叶える装置群がモニターシステム(PAシステムの一部とも言えるが特にステージ上の音響マネジメントをする部門)です。
その末端にあるのがステージモニター。

_主な3つの環境
1)わりと生音の静かな楽器編成だと沢山の音への対応は必要ないが「離れてる」ってだけで「近くに居るように聴きたい」って必要は生まれます。

2)電気楽器ばかりでステージ上のアンプを鳴らさない場合は、モニターが無ければ互いの音は全く聞こえません。

3)沢山の大きめな生音で溢れかえってるステージだと、先ずは遮音してから聴きたい音を特に聴けるようにする必要があります。

伝統的なステージモニターは足下のスピーカーです。
自分の音だけでなく離れた奏者達の音を丁度良いバランスで聴けるよう調整されます。
客席向け(いわゆる「外出し」)とは違った音量バランスとなります。
そのバランスは奏者ごとに違えて出せるようにシステムは組まれます。

やがて必要に応じてヘッドフォンも使われるようになりました。
舞台上での位置移動が足下スピーカーより融通が利きます。
演劇公演で役者が顔に付ける小さなワイヤレスマイクも同じ理由でしょう。
昔は床の所々に置いたマイクだけでしたから。

更に見た目の必要から今世紀に入って IEM が急速に成長したようです。
ワイヤレスのモニター装置と組み合わせれば舞台上どこでも行けますし。

ちなみに「補聴器」はどちらかと言えばモニタリング用。
人の声の周波数帯域を聞き取りやすいように調整されてます。
特に低い&高い帯域をカットすれば環境雑音を拾いにくくもできるのでしょう。

モニタリング用のは補聴器の性能を全可聴帯域に広げたものとも言えるわけで、長年補聴器を作ってきたメーカーが IEM の名器を出してるのも理解できます。
須山補聴器、ONKYO などが有名です。

IEM の発音ドライバとしてだいぶ普及してきた「バランストアーマチュア型」は、もともと補聴器の世界で使われてきたのだそうで。
明瞭性が命なわけで納得いきます。
再生できる周波数帯域を低いほうにも拡大し音楽用にも使えるよう発展したのですね。

須山補聴器 _ FitEar
https://fitear.jp/music/
↑の本家より解りやすい紹介↓
Fujiya AVIC の FitEar 紹介ブログ
https://www.fujiya-avic.co.jp/blog/detail/600

ONKYO
https://onkyodirect.jp/shop/pages/CUSTOM_IEM.aspx

そうそう、忘れちゃいけないのがステージ用 IEM を最初に出した米国のアルティメットイヤーズ
https://pro.ultimateears.com/

今ではアジア圏でも IEM メーカーは増え「中華イヤフォン」の安価高性能も注目されています。

次回は…

なかなか本題のイヤーピースにたどり着けませんね (^_^;
と言いつつ、
次回はスピーカーの「応答特性」について書くつもり m(_ _)m
連載3回目は↓

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