クラリネットの倍音練習はピッチに拘らないのがコツ

クラリネットでも倍音練習するといい
って皆知ってる。

けど、たいてい戸惑うことがある。
必ず変な音程になる。
無理にマトモなピッチに合わせようとすると
かえって悪い癖をつけかねない。

うまく付き合うコツを考えてみました。

倍音練習なんのため?

身体から出る呼気自体に、
目指す「音高・音圧・音色」の情報を含ませられるように、
です。
それができれば、運指が適確なかぎりどの音域でも目指す音を出しやすくなる。

音高遷移の際の繋がりもよくなるし、
リードミス(=狙った音高と違った倍音が出てしまうこと)も減る。

もちろん呼気だけでなく音高に応じたアンブシュア操作も共に身に付けることになります。

倍音練習とうまく付き合うのに知っておくべきこと

クラリネットは倍音を音として鳴らすと
必ず変な音程になります。

「音として鳴らす」とは、
含まれる沢山の倍音成分のうちの1つに焦点を絞り、
「その高さの音」として鳴らすってこと。

「変な」とは、
倍音列の中にあるべき音程とは違った音程ばかりが鳴るってことです。

物理学の理屈では、楽音にはその周波数の2倍・3倍・4倍、、、の周波数の音が同時に含まれます。
基の音高を「ド」と呼ぶとすると、
ド・オクターブ上のド・その上のソ・ド・ミ・ソ・シ♭・ド・レ、、、
と並びます。

平均律と比べるとは微妙にズレる音程ばかりですが、
音高ごとに個々の楽器を用意し同時に鳴らすと、
ピッタリ調和して、まるで1つの音のように落ち着き、
かつ、豊かなハーモニーとして受けとめられる響きとなります。

実はそれらはたった1音の楽音の中にもともと含まれています。

そのうちのどれか1つだけを特に取り出して鳴らすことで、
管楽器はより広い音域での演奏を可能にしてます。
たとえばトランペット、3つのバルブの組合せで作れる音高は半音階で7種類しかありません。
でも、それと倍音を行き来するのを組み合わせて広い音域を実現します。

で、だ、

基の音に含まれる、基とは違う高さの音を「取り出して」鳴らすのなら、綺麗に倍音どおりに鳴ってくれそうなものですが、クラリネットは何故か一筋縄には行かないみたいです。

インハーモニシティとクラのミステリー

インハーモニシティって言葉があります。

ピアノの調律は、高音域は低音域よりもピッチを少し高めにするものです。
低音域は太い弦をとても強い力で引っ張ってます。
すると、それを鳴らした時の倍音群は高音域の方では上ずるそうです。
それに合わせて、上の方の鍵盤を少し上ずらせると
全体の響きとしては調和しやすいからだそうです。

そのように、発音体の状態しだいで、倍音群に分布する周波数が
理屈(倍倍倍、、、という)とは違った偏りになることがあります。
それをインハーモニシティと呼びます。

クラの不思議、、、

まず、ある運指での最低音を鳴らします。
そこに含まれる倍音達の周波数は綺麗に倍々々と並んでます。

上の写真はウォーミングアップでよくやるアレの最中の周波数分布グラフです。

そうそうコレコレ。

この写真を見るかぎりクラの音自体には甚だしいインハーモニシティは見受けられません。
興味深いのは、、
偶数次倍音もちゃんと含まれてるってことです。
『閉管構造のクラリネットは「奇数次倍音のみ含む」からアァイウ音色なのだ』
ってよく言われるけど、それは間違いってことですね。

さて、
ある倍音だけを取り出して鳴らしてみるとミステリーが湧きます。
猛烈に音痴になるんです。
なぜそうなるのか、、それは今後の長大な研究テーマにしようと思います。

その音痴を巧みに解決するレジスターキーを発明し改良を続けてくれる楽器メーカーには感謝せねばなりませんね。

ともあれ、鳴る倍音が音痴なのは仕方ないわけで、
それと仲良くして活かす考えをこの先に進めますね。

とにかく知ること

相手を知らねば対処の仕方も考えられません。

どれだけ音痴なのかを厳密に観察しました。
結果をまとめたのが↓の図版です。

奇数小節が物理理論上出るはずの奇数次倍音の音高、
偶数小節が実際に出る音高(楽器・セッティングによる差はある)、

正規運指でマトモなピッチになるアンブシュアを変えずに倍音運指にして、ピッチのズレを記録しました。複数回試行のほぼ中心的数値を記してます。
添えた数字は平均律からのズレ量で単位はセント(半音の 1/100 な音程がひと目盛)。
赤色は特にピッチが下がる箇所です。
数字を複数添えてあるとこは替え指が2箇所、それ以降は近似の倍音が複数見つかるとこです。

レジスタキーが無ければこの楽器は猛烈に音痴なわけですね (^_^;

まずは仲良くしよう

レジスタキーを使わずに倍音を出すことで、
「とにかくソコラヘンの音域を鳴らせる呼気&アンブシュア操作ができた!」

もうそれだけでヨシってしましょう。

↑おっきく書いたのは、それが本稿の一番の結論だからです。
ゆるいオチですみませんっ(^_^;


ピッチについてキビシイ突き詰めは無意味です。
この練習に関する限りは。
マトモなピッチにしようと無理をすると、唇を痛めたり妙な癖をつけたりしかねません。

倍音を出すこと自体が難しい人も居るでしょう。
ついつい噛み締めて出そうとしがちです。
音色は潰れてボソボソと淋しい響きになり、ピッチは上ずります。

リードを噛み締めて出るものではありません。
口腔内容積&形状と呼気圧とのバランスで出します。
それができれば噛み締めて下唇を痛めません。

その点、実際にどんなことをするのか
って話は長くなるので、そのうち稿を改めますね。

とりあえずヒントになりそうなこと、、
サックス向けに書いた本ですが↓参考になると思います。

『ギジレジで倍音簡単!』 http://bit.ly/KT_gijireji

簡単な入口だけは書き留めておきます。

倍音がなかなか出せない場合、
まずは普通にレジスタキーを使った運指で出します。
それを伸ばしてる最中にレジスタキーから親指を離します。
たいていの音でガクっとピッチが下がります。
そこでビックリして上げようとしないのがコツです。

下がっても構わずにしばらく伸ばしましょう。
その間に、口腔内や呼吸に関わる諸筋がどんな感触なのかを観察し記憶しましょう。
息継ぎをし、さきほどの記憶を再現すればレジスタキーを押さずとも第3次倍音を出せるはずです。

もちろん最初は、記憶の再現を適確にはできないので失敗します。
このプロセスを繰りかえすうちに確率は上がります。

音痴を活かす工夫

音痴なのを逆手に取った練習法もあります。

違う運指で同じ音高を出します。
下の図版を見れば判るように、なかなか同じ高さにならないものです。

そこで、
口腔内容積&形状と呼気圧とのバランス操作で、
「ほっといたら合わないはずの2音」
の音高を合わせましょう。

その時のコツ。
マトモなピッチ(たとえば A=441Hz を基準にした平均律…とか)には拘らないこと。
どんなピッチであれ、その2音の高さが揃うのを目指しましょう。
音高操作と音程感覚のためにとてもよい練習になります。

<後日注記>
↑と書きましたが、それは飽くまでもアンブシュアの柔軟性の為です。
それはそれとして、また別の目的設定も有り得ます。
よい音色を目指すアンブシュアの安定の為には、
ピッチが違うのを当然としてこの練習をするのも佳いでしょう。
その場合は、ピッチはどうであれ
「ある音高をとにかく鳴らす、音痴でも、ただし音色に留意して」
が要点となるわけです。
目的に応じて柔軟に練習を使いこなしましょう。

というわけで…

どんな練習法もよい結果に至るには、
目的を見据えること、
その実現に向かう着実なプロセスを組むこと、
プロセスを阻害する別件(マトモなピッチに拘ることとかね)に惑わされないように、
進捗を評価し続けること、
などなどが大切なんだと思います。
目的を見据えてなければ、その道程も結果も評価のしようがありませんからね。

もっと大切なこと。
どんな練習をしていても、
よい音色を保つ(自分が出したいと思う音色がヨイネイロです)、
思い描いたアインザッツを常に目指す、
音のお尻の形も思い描いたように、
そして、リズムは音楽の命です。

地味な練習こそ、のちのちドカンと効いてくるもんです。
あわてずジックリ毎日取り組んでみましょうね。

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