合奏中に
「低いよ」と言われ
「あれ?ずいぶんと高めに吹いてんのにな」
ってことは多いですよね。その逆もまた。
小さな音程での高低の聞き間違いは起きやすい、ということ。
半音の半分未満の音程での話です。
吹奏楽やビッグバンドなど合奏の際、
ピッチが多数決からズレてるのは判っても、
その「上下」や「ズレ幅」の誤認はよく起きますよね。
どんな時にナゼ? って考えてみました。
音&音色_周波数・固有振動数・共鳴・倍音・楽音・噪音・定常波・インハーモニシティ
最初に用語の確認をしますね。
「音&音色・音高・音圧・音程・ピッチ」という順に進めます。
(本題に辿り着くまでしばらくかかります。すぐに本題を読みたい方は目次↑から飛んで下さい。6番あたりから本題)
音とは実際には、
空気密度の周期的な疎密変化が空気中を伝播(移動)したもの。
「密」なら高気圧、「疎」なら低気圧。
それが物体に衝突すると、その物体は振動します。
衝突物体が鼓膜の場合、人間はその振動を音として認識します。
つまり、振動源のエネルギーが空気に疎密を周期的に起こさせ、
それが鼓膜そして脳の聴覚領域に届いた時、人はそれを音として知覚するわけです。
空気の疎密の様子は「波形」としてグラフ表示できます。
なので一般的に音を「振動」とか「波の形」として扱うわけです。
音を恣意的に発生させたい時には、
空気に触れている物体に周期的振動をさせる、わけです。
すると、触れてる空気に空気圧の周期的粗密と伝播が起こります。
つまりその「物体」が楽器や人の声帯ですね。
周期的な振動がⅠ秒間に何回起こるか、それを周波数と呼び、
単位 Hz(ヘルツ)で表します。
その数値が小さいほど低く、大きいほど高い音となります。
物体の硬さ・重さ・密度・体積などにより、
「その物体が振動しやすい周波数・振動しやすさ…etc.」
は変わります。
それ次第で、
空気の疎密振動に触れた時の、振動のさせられ方も変わります。
素材ごとに違う「振動しやすい周波数」のことを
「固有振動数」と呼びます。
空気の疎密波の周波数と、触れた物体の固有振動数が一致すると、物体は効率良く振動させられます。
それを「共鳴」と呼びます。
もちろん共鳴しない組み合わせでも「振動させられる」は起こります。
そのうち特に効率良く響き合う組み合わせでの現象を共鳴と呼ぶわけです。
基本的な振動周波数、その倍、倍、倍…に当たる周波数(=倍音)が固有振動数と一致しても共鳴は起こりますが、その強さは、疎密波の基本振動周波数との共鳴と比べれば大抵弱くなります。
「大抵」と書いたのは…
大概の楽音(すぐ下に詳述)では基本振動こそ音圧が最も大きく、倍音はそれよりは小さくなるものです。
ところが、稀に基本振動よりも倍音の方が大きいような音色もあります。
だから「大抵」と書きました。
ちなみに、
『倍音』は自然界に発生する音にほぼ必ず含まれるもので、その含まれる割合により『音色』は特徴付けられます。
人の声の「母音」も音色に依ります。
口腔内の形状を、主に舌で変形させることで倍音の含まれ方が変わり、違った母音として認識されます。
それすなわち声の「音色」の変化です。
下の写真は、下の方から「ウオアエイ」に含まれる倍音の様子を示してます。
左端、鍵盤のA(ラ)辺りの濃い所が基本振動数つまり基音=第1次倍音。
右に向けて第2次倍音、第3次倍音…。
ここでは ウオアエイ とクッキリと分かれて見えますが、その中間的状態も連続的に存在させられます。
その様子は稿を改めて詳しく紹介しますね。
☆ちょっと寄り道☆
口腔内容積&形状の変化は管楽器の音にも影響を与え、演奏法に利用されるものです。
ザックリ言うと…
狭い 〜 広い _ 口腔内容積
↓ ↓
高い 〜 低い _ 出しやすい音域
堅い 〜 柔らかい _ 音色の傾向
上ずる 〜 ブラ下がる _ ピッチの傾向
これ以外の幾つかの要素も交えてサックスのアンブシュアと
音質向上の練習について紹介した書籍↓
『ギジレジで倍音簡単!』 http://bit.ly/KT_gijireji
☆寄り道、ここまで☆
さらに詳しく言えば…
基本振動に伴う諸振動の成す音を総じて「部分音、成分音、上音」などと呼びます。
その内、基本振動数の倍、倍…にあたるものを特に倍音と呼びます。
それ以外の音は雑音と呼び、
倍音がキチンと整数倍の周波数で並ぶと「楽音」
雑音が増えると「噪音」に近づきます。
楽音とは音色と音高を聴き分け易く、音楽に利用しやすい音のこと。
噪音とは楽音ではない音のこと。
ところが、そうとも限らず、
楽器種によっては、基本振動数がどうであれ、一定の周波数の音=定常波を含み、それが楽器音の個性を決める場合もあります。
雑音成分が楽器音色の個性にとって重要な場合も多い。
更にヤヤコシイこと。
インハーモニシティ。
発音源の状態により「ほぼ倍音だが微妙に周波数がズレる」こともあります。
ピアノのチューニングは高音域ほど高めにするものです。
なぜなら、最低音域は弦の張力が強く、その高次倍音は上ずるので、それに実際の高音域を合わせると楽器全体の共鳴の仕方が美しくなるから、だそうです。
木管楽器だと、音孔を全て塞いだ音は倍音が綺麗に並ぶが、塞ぎの少ない音は倍音列が乱れます。
何故ならば、その高さを出す管長の「向こう側」に、不規則な出来事を生む環境が続くからです。
(音孔は開いてるが、管体_しかも穴がポコポコあいた不規則な形状の_がある。それが、単に短い管体、とは別の出来事を起こすようです。)
簡単に言えば、短い管長で出せる音高を出すために、いちいちその長さに切り取ったりできないってことです。
そうした出来事をインハーモニシティと呼びます。
それが起こってるとは言え、楽音ではないと呼べるほどの甚だしさではないので、というか、ズレてる成分は殆ど聴き分けられない音圧なので、楽器としてはさほどの問題にならないのでしょう。
木管楽器を吹く人なら、管長の短いあたりの音色・響きを造る難しさを痛感してることでしょう。
構造上しかたないってことで、なんとか仲良く付き合ってくしかないようです。
音高とは?_日本語の問題も含め
『音高』=音の高さ。
音として捉えられる振動が、単位時間あたりどれだけの回数起こるかに依り、五線紙のどの位置に玉を書きたくなるかが変わります。
上の方なら「高い」下の方なら「低い」わけです。
1秒間に何回の振動なのか、を表す概念が
「周波数」で単位は「Hz_ヘルツ」。
空気圧の疎密=気圧変化をグラフで波上に表したとして、
波の行ったり来たりが1秒間に何回なのか、を表します。
日本語では「音が高い」と言うと「音が大きい」の「も」示しがちですが、
音楽や音の物理学について語る場合に「高い低い」という言葉は周波数について使うもの、と思っておけば混乱を避けられます。
日本語についての考察となりますが、
音の大きさを数値で表した時、その数値の大小を即ち「高低」という言葉で表す人も居ます。
「5は3より大きい数値」
「5は3より高い数値」
どちらも間違った日本語ではありません。
ですが、
「確率が高い」とは言うが
「確率が大きい」とはあまり言いませんものね。
その時々で相応しいものを選ぶものです。
なので、
「音が高い」と聞いた時に、それが音高についてなのか、音の大きさについてなのか、前後の文脈から判断すればよいのです。
ただし、音楽の話をしてる限り
・「高い・低い」は音高
・「大きい・小さい」は音の大きさ
について示すのだ、と約束しておくと混乱を避けやすくなります。
音圧とは?
『音圧』=音の大きさ。
音量とも言います。
もちろん「圧」と「量」で想像される景色は変わりますね。
その時々で相応しい呼び方を選べばよいのでしょう。
人間に音として感知される振動エネルギーの大きさ。
「波」が、どれだけの幅(距離)を往復移動するかってこと。
空気の粗密でいえば、気圧の高低差がどれだけなのかってこと。
人の鼓膜に当たった時、鼓膜を
「どれだけ深く押し込んだり引っ張り出したりするか」
とも言えます。
「dB_デシベル」という単位で表し、
数値が大きければ「大きい音」
小さければ「小さい音」です。
?デシベル、、ってことは「10分の1ベル」、、
ってことは「1ベル」って何が基準なんかな?
↓の解説が解り易いみたい
「小学生でも分かるデシベル(dB)の話」
https://macasakr.sakura.ne.jp/decibel.html
ちなみに
「音が強い、弱い」
とも言われますね。
「大きい・小さい」
が物理的観察結果の表現なのに対して、
感情での受け取られ方の表現とも言えるでしょう。
音楽の中で、ある瞬間の音圧を人の心が如何に受けとめたか、を表すのが「強弱」なのでしょう。
なので、
音楽表現に於いては、実際の音圧の大小と、強弱の印象は正比例しないことも有り得るわけです。
言葉の組み合わせとしては、
・音圧_大小、、物理的な捉え方
・音量_強弱、、感情的な受取方
と言える、、のかどうか、、
そこら辺は人それぞれなのでしょうね。
そういった言葉についての考察は↓が面白い文章ですね。
https://macasakr.sakura.ne.jp/decibel3.html#31
音程とは?_○度・セント・平均律・純正律・調律楽器・調音楽器
『音程』=2音間の隔たり具合。
2つの音高がどれだけ離れてるかを示す概念。
音楽の世界で使われる言葉です。
音高と音圧は音楽だけでなく物理の世界、つまり一般生活の中でも使われます。
音程という言葉は日本語会話に普通に登場しますが、
多くの場合「音高」のことと誤認されがちです。
音楽家同士の会話でもそれは起こりうるので要注意です。
2音の周波数の「差」が音高の距離を示します。
鍵盤に置き換えれば、その2つが鍵盤いくつ分離れてるか、とも言えます。
その距離を、
「五線というモノサシの目盛に乗る2つの符頭(音符の玉)がどれだけ離れてるか」
を言い表したのが音程です。
単位は「○○度」
五線の同じ高さにある2つの玉は「1度」の関係。
すぐ隣りにあれば「2度」
さらにもう一つ向こう側なら「3度」
2度でも、半音なら短2度、
半音2つ分つまり全音なら長2度、
半音3つ分なら増2度。
3度も、半音3つ分だと短3度、
4つ分なら長3度、
珍しいケースだが有り得るのは、
半音2つ分で減3度、
半音5つ分で増3度。
五線とか鍵盤というモノサシで言い表せる音程はそのように言い表すわけです。
ところがそれだと半音未満の音程は言い表せません。
ですが実際の音楽では、より微細な音程についても感知&考慮されます。
より微細な音程を表すには「cent_セント」という単位を用います。
1オクターブ(周波数の違いが 1:2 の比率となるような音程)
を1200等分したうちの1つが1セント。
半音は100セント。
「セント」の本来の意味合いは「半音の100分の1」。
1200等分するという言い方は元々、
「1オクターブを12等分してその1つを半音とする」
という「平均律」の考え方に基づきます。
その1つの半音を100等分して微細な音程を表そうとしたわけ。
平均律とは、鍵盤楽器など
「演奏中に容易に各音高を調整できない楽器」=「調律楽器」
の調律方法(≈音律)の1つ。
音律の歴史の中で平均律が支配的な方法として確定する以前に、
沢山の種類の音律が編み出されました。
最も代表的な名前は「純正律」でしょう。
それがナニで、その後どんな変遷を経て平均律に至ったか
を述べるのは稿を改めるとして大雑把に言えば純正律とは、
ドミソ・ファラド・ソシレ(長調の場合)
ラドミ・レファラ・ミソシ(短調の場合)
のハーモニーそれぞれが美しく調和する音程に調整された調律法、
ということです。
その場合の「美しく」とは(とりあえず長調の場合)、
「3種類の三和音がそれぞれの根音(ドミソのド、ファラドのファ、ソシレのソ)を基音とする倍音列に内在する音程から構成される」
ということです。
それが古来「美しく調和した」と感覚される和声の作り方だからです。
そういった音程で鳴ると、3つの高さの音が、まるで1つの音かのように、しかし、1つの音では有り得ない豊かな響きとして聞こえます。
ドミソなら「ド」を基音とする倍音列に含まれる音程からミとソを導き出す。
ファラドならファを基音とする倍音列からラとドを導き出すのだが、先程のドミソの時のドと今回のドを一致させてから逆算するようにファの音高を決め、それを基音としてラも見つけることになります。
ソシレだと、ドミソで決まったソを基音とする倍音列の中からシとレを見つけます。
そうして出来上がった純正律は平均律の音高と比べると、
ド は一致させるとして、、
ミ_14 セント低い(厳密には 13.686…)
ソ_2セント高い( 1.955…)
ファ_2セント低い
ラ_16 セント低い
シ_12 セント低い
レ_4セント高い
、、となります。
結果的に、
ドミソ(主和音)ファラド(下属和音)ソシレ(属和音)
の主要三和音のみを使う単純な和声進行の曲でのみ「美しい」となります。
それ以外の三和音を使ったり、転調を試みた途端に奇妙な響きとなります。
旋律も奇妙な聞こえになりやすい(平均律に慣れた現代人の耳では特に)。
複雑な和声構成の曲でも、響きの美しさ〜汚さのバランスの最大公約数的妥協点として辿り着いたのが平均律です。
主要三和音でもそうでない和音でも、
どこに転調しても、
だいたい公平に汚く美しい、のが平均律です。
ただし、それが必要とされるのは「調律楽器」だからです。
演奏中、即時的に音高を調整できる「調音楽器」なら、
どんな転調をしても、どの和声を使っても
「今は○を基音とする倍音列の中で美しくハーモニーを作ろう」
と思えば音高調整可能だからです。
調音楽器とは、管楽器やフレットの無い弦楽器、声楽などです。
フレットのある弦楽器でもある程度の調整はできるので、半調音楽器とも言えます。
調音楽器のみのアンサンブルならば、常に調和した和声を目指せます。
ですが、調律楽器も交えたアンサンブルでは、
調音楽器の人が妥協して調律楽器の音高(平均律)に寄せることが多い。
和声の響きに敏感な合唱ピアノ伴奏者だと、合唱の響きを阻害するような平均律の音高のみを小さくしたり鳴らさなかったりもするそうですね。
ピッチとは
「ピッチ」とは、
合奏体全体で、或いは
調律楽器の調律に於いて、
どんな高さの音を基準に、
平均律あるいは純正律的諸音律を規定するか、
そして、その結果どんな音高群を音楽の骨格的素材として扱うか、
そういった事々をひっくるめた概念と言えます。
「どんな高さの音を基準とするか」
について現状では、
「A3=ピアノの鍵穴のすぐ右にあるラの音を 440~442 Hz とし、それを基準とする」
のが大多数です。
何故A音なのか、何故 440~442Hz なのか、
については語り尽くされてるのでここでは割愛します。
大多数と言うのは、ザックリ言えば、
歴史上さまざまに変わってきたからです。
地域や、合奏体の個性によっても変わります。
古い音楽を再現する際には、より低いピッチが使われるし、
ヨーロッパのオーケストラではより高いピッチを使う所もあります。
音程の誤認
いよいよ本題です。
微細な(半音未満の)音程関係にある2音について、
あるいは、
ある1音と合奏全体の多数決的ピッチとが、
・どれだけズレてるか
・ズレてるなら高いのか低いのか
その判断を誤ることは多いです。
ユニゾン or オクターブ(2人の奏者が同じ音高を鳴らす)とか
完全5度4度などはズレるとすぐに気付きやすい。
ところが場合により上記のような誤認を起こしやすいのです。
どんな場合にどんな現象が起こりやすいのか。
自分の経験を素に整理してみます。
ユニゾン、ウナリ
説明を単純化するために、
「2音のユニゾン」
を対象に話を進めます。
1人目の出す高さに対し、
2人目がユニゾンするとします。
双方の周波数がピッタリ合えば
「うまくユニゾンできたね」
となります。
ズレていれば双方の周波数の「差」にあたる回数(1秒あたりの)のウナリが生じます。
例えば、200 Hz と 208 Hz の音が同じ空間に鳴ると、
差し引き8Hz、つまり1秒間に8回のウナリを生じます。
ピッタリ合えばウナリません。
ウナっていればズレているということ。
この観察は通常、双方の基本振動数同士について考慮します。
ですが、
楽器種が違えばインハーモニシティにより、基本振動数は合っていても、倍音同士でズレているとウナリを生ずることがあります。
チューバなどで音高補正用のバルブが複数あるのは、そうした問題を回避する為でもあるようですね。
とはいえ、
現象として最も目立つのは基本振動同士の出来事ではあります。
差音・ローインターヴァルリミット(・加音)
ただし2音の周波数差が 18 Hzあたりを越えると
ウナリとは感じられず「差音=新たに生じる3つ目の音」として知覚されます。
差音は、
・空間に実在する現象
・人間の聴覚の非直線性による錯覚
…とする2説が対立を続けてます。
前者は物理学的、後者は認知心理学的な立場と言えます。
なのですが、
とにかく「聞こえる」ので、音楽家としては「音がするね~」
ってことで付き合ってよいかと。
ちなみに、友人に↑のどっちが正解かを実証する為のアプリを造ってもらったことがあります。
それについてはまた後ほど詳しく。
さて、差音は如何に現象するか、、
「音程と聞こえる差音の関係」は音域で変わります。
音程(度・セント)は音域でその感覚に差はありませんが、
周波数の差は、同じ音程だとしても低音域ではジワジワと高音域ではブワっと変化するからです。 ん?わかりにくい、かな?
ザックリと2パターンで説明しますね。
1)
2音が長2度離れているとします。
低い音域ではその周波数差が 10 Hz だとしても、
高い音域だと 100 Hz になったりします。
同じ長2度なのに、です。
2)
2音が 20 Hz 離れているとします。
低い音域ではその 20Hz は完全4度など大きな音程になるが、
高~い音域では半音の半分以下に相当したりします。
なんとなく解っていただけたかしら?
つまり、
同じ音程(○度)でも、
高音域ではウナらないが、
低音域ではウナったりするわけです。
その場合、高音域では差音を聞こえさせ、
低音域ではウナリを感じさせます。
実はそれが「ローインターヴァルリミット」と呼ばれるアレンジ上の知識の素です。
ウナリは不快感に繋がるので、低音域ではウナリを起こす音程を使うのは避けましょう、という知識です。
なのですが、
それが音楽的に効果的な場合は逆に利用されたりもします。
ついでに知っておくとイイかもなこと、
調律楽器ではウナるが、調音楽器では奏者次第で、かなり低い音域でもウナらないよう演奏するのも可能だったりします。
ちなみに、
2つの周波数の「和」の音が聞こえる=「加音」もある、という説もありますが、筆者の体験上、それが差音ほど確かな出来事とは言えません。
ですが、
「加音ではないが差音でもない別の高さの」が、しかも複数聞こえる、のは普通に起こります。
それをジックリ観察したことがあります。
ちゃんと規則性はあり、どうやら物理的な計算で言い当てられそうではありますが、そこまで研究は進めてません。
2つの波形を合成した結果の波形に、特徴的に現れる周期性が、新たな音高として認識される、ということみたいです。
高低認識逆転の起こりやすい領域
いよいよ本当に本題です。
2者によるユニゾンがズレてる時、
そのズレかた次第で不思議な現象が起こります。
周波数の差が数ヘルツ未満だと、
人間はその複合波全体を聞いて、
「2つの中間の周波数」
としてその高さを認識しやすいそうです。
※その件、研究結果を詳しく見せてくれるポップな書籍↓
『音律と音階の科学 新装版_ドレミ…はどのように生まれたか』小方厚著
微細な音程の2音を聞いた時、人の耳は如何に感覚するか、について実験結果に基づき述べた項目が秀逸です。
本稿テーマの「誤認の様態と要因の考察」には触れてませんが、音に関わる物理現象を音楽的観点から平易に説明した良書です。
さて、どうやら
その領域では、高低の誤認を起こしやすいようです。
2つの音を複合波としてでなく、それぞれの高さを聴き分けようとした時に、本来の高低を逆転して受けとめる可能性があるということ。
演奏してる本人達にも、傍で聴いてる人にも起こりうるようです。
ただしそれはいつも必ず起こるわけでなく、
環境によって変わるし個人差もあります。
その点詳しくは後に書きますね。
ウワズリツボが引き起こす事件
「合ってる!」と感覚し得る高さのことを俗にツボと呼びます。
2音の或いは、合奏体全体とアル音との周波数がピッタリ合えば、そこが本来のツボ。
ですが、
上記の「誤認しやすい領域」のすぐ上に
「合ってる!」と「聞き誤りやすい極狭い領域」があるようです。
すぐ下にもありそうですが、筆者は殆ど体験してないので断言できません。
ブラスセクションなどやってると、
「いっつも高いよな~」
って思うことがあります。
音高を支配する力の強い奏者がウワズリツボに居る場合です。
あるいは、
自分がウワズリツボに居て、それに気付いてないと、他の奏者が
「仕方ないな~」って上ずらせてくれる。
ところが、自分の起こしたウワズリの原因に気付いてないから、
他の奏者がツケてくると、自分は更に上げたくなったり。
そんなことも起こり得ます。
さらに、
裏の裏をかかれてもっと不味い結果になることもあります。
隣りの奏者がウワズリツボに居ると思い込んで、
自分はリズム隊に合わせなきゃとも思い込み、
隣りの人より低め安定に居る、それをモノサシに過ごしてると、、
いつの間にか隣の人がジャストに戻ると、
ありゃ?ありゃ?
すぐにリズム隊の音に合わせられず、
数秒間はブラ下がり気味の人になったり。。(^_^;
バンド全体どんどん上ずる!の原因
人間の耳は、2つ違うピッチが共存してると、
どっちかといえば高いほうをヨシと思いがちみたいですね。
それがウワズリツボの存在理由かもしれないし、
よく耳にする
「同じズレテルでも、高い方がマシ」
って言葉の理由みたいですね。
ですが、それを許容してると、
アンサンブル全体がどんどん上ずりがちです。
ちなみに管楽器の場合、
楽器の癖でブラ下がる音を力づくで持ち上げると音質劣化の素だし、ある程度以上持ち上げるのは困難。
だから、
その箇所がマトモなピッチになるよう或いは、持ち上げるのが可能な範囲にチューニングする。
その結果、
上ずり癖のある音は頑張って下げねばならない。
ところが、
そのケアをできない奏者はその音をノビノビと上ずらせる、
すると、
上ずった音を耳にした他の奏者は、そのピッチをヨシとして、その後その高さで行きたくなる。
で、ケアできないさんは更にまた上ずりの原因を作る。
、、の繰り返しでアンサンブル全体がどんどん上ずっていく orz
なので、
ケアできないさんが居る時には、その上ずりに釣られないよう気を付けねばですね。
調律楽器のリズム隊が居るなら、そこのピッチから離れないようにするぞってことです。
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜
☆追記☆
上記の「ケアできない」ね、
大切なのは「できない」ってことです。
それはそれで当たり前なことで仕方ないのですから。
普通はできませんものね。
もし、
「しない」だと喧嘩になるんで ^^;
環境による現象のバラツキ
上記の
・高低認識逆転領域
・ウワズリツボ
について、周波数やセント数で明確に領域/位置を示さなかった理由。
この現象は環境により変化すると思われるからです。
★音色、音圧の違い
音色の違い、これはつまり先述のインハーモニシティの影響が大きいかもしれません。
例えば、
テナーサックスは金管群と溶け込みやすいが、アルトサックスが何故かピタっとしたツボを見つけにくかったりします。
ですが、音色作りの工夫で居心地を見つけられる場合も多いです。
相互の音圧バランスによっても音高の聞こえ方が変わることもあります。
それもインハーモニシティは関わるでしょう。
管楽器は総じて、大きな音で吹くと倍音成分が減るものです。
小さな音で倍音成分タップリで鳴らす時とは結果は色々と変わるはずです。
★電子楽器の音色造りで使われるデチューン
これ、けっこう多いです。
シンセサイザーの音色造りの方法の一つで、少しだけ高さをズラした音を重ねるってのがあります。
デチューン、すなわちピッチをズラすってこと。
ズレた方の音圧は大抵小さめにするわけですが、結果としてコーラス効果(プルプル震える音)だったり、拡がり感を得たりする。
そのズレた成分に惑わされることは多いです。
昔のシンセだと奏者自身がそうした音造りをすることが多かったが、最近はプリセットされた音をそのまま使う奏者が多いので、自身が弾いた音をオカシイとは思いにくいでしょう。
基本的に鍵盤楽器の音高は楽器任せなので。
デチューンされた成分がアンサンブル全体に影響することは意外と多いようです。
バンド全体が急に休符になった瞬間にエレピの音だけ残ると、妙な高さに聞こえることってありますよね。
逆に、鍵盤奏者が生楽器の音高を聞き誤ることも有り得ますね。
理由は同じ。
実はデチューンに惑わされてる、のと、自身の出してる音高は妙なはずは無いという思い込み。
そこに上記の、高低逆転しやすい領域・ウワズリツボなどの事件が相絡んでイタズラするみたいです。
★合奏全体の音圧と環境
バンド全体の音圧、これは結構影響します。
爆音で耳が溢れかえってると音高判断が曖昧やらイイカゲンにります。
自分の音であれ他人の音であれ。
きっと脳味噌のどこかが諦めるのでしょうね。
聞こえなきゃ調整もできない。
モニタ環境とか、どの楽器のそばに居るか、とかでも影響を受けることはあります。
ドラムの真ん前でフルートを吹くってのはなかなか過酷ですね。
全体の音量が大きくなければそういった問題は起こりにくい。
なので、
必要最低限で、全員が互いの音を聴けるような、ステージ上の音量バランスを作るのが、佳い響きにとっては理想なんだと思います。
★立場の違い
評価対象の音が
・自分が出してるか
・他の誰かが出してるか
・自分発音だけど遠い所から聞こえるか
・他の誰かの音が聞こえる場所の遠近
・遠いなら、間にどんな音が挟まってるか
・評価する相手が調律楽器なのか調音楽器なのか
・それに対して自分が調律楽器なのか調音楽器なのか
…そんなことでも
・現象
・感覚
・受取方
・その言い表し方
…は微妙にかわるでしょう。
★個人差
コダワリの差、でしょうか。
合ってるか否か、は明らかですが、
合ってない時に、どれだけを許容するか、
あるいは、場面次第で許容値は変わるのか、
などなどは人それぞれですね。
それ次第で、感じ取り方にも違いは生ずるようです。
★絶対音感な人にありがちなこと
あるあるです。
(あくまでも筆者の身の回りでの体験に基づいての話ですよ)
そのタイプの人の体内標準ピッチが 440 Hz なのは稀で、
殊にニッポンでソノ手の教育を幼少時に受けた人だと
442~445 Hz が多いようです。
ポピュラー音楽の現場だと大抵、
自分の出したいと思うピッチが、周囲よりも高いとこに居るわけ。
合奏体の標準ピッチが 440 だろうが 442 だろうが出したいピッチは変わらないので、いつでも妙なお気持ちなのだろう、と想像しますが、、
どういう諦め方をなさってるものか、、
モヤモヤと耳をつぶって誤魔化してるのか、、
耳をつぶる習慣ゆえに、聞き逃しちゃう他人の音もあるかもなの?、、
、、そのうち色んな人にゆっくり話を訊いてみたいです。
さて話を戻します。
自分の出す音が周囲とズレてるのは判っていても、
どうにも「下がれない」ことが多いようです。
で、アリガチなのが、
「ズレてるのをナントカスルために、トニカク高くしてみる」
みたいです。
「低い」という判断があってそうしてる風でもなし、、、
もちろんココでも、高低認識逆転領域とウワズリツボは作用してるでしょう。
大抵どうするかというと、
「どっちかといえば上に逃げとけ!」が多いみたい。
ウナリなぞ気にならないくらい上げれば気にならない。
ナニが気にならないって、自分の感覚と環境とのズレに。
実際の出音とのズレに…ならば下げるはずなので。
って書くと、まるで絶対音感が悪いみたいですが、
決してそうではなく、
相対的な音程関係の把握力を鍛えてるか否かってことみたい。
だから、
このタイプの問題は絶対音感者に限るものではない。
なのですが、
演奏家同士と限るなら、絶対音感を持たずにソコに居る人は
そういった問題を既にクリアしてる率が高い。
結果として、
絶対音感者のほうが目立ってしまう(意外性も手伝って)のでしょう。
この出来事は、音を出す本人に限らず、
傍で聴いてる人にも起こるみたいですね。
つまり、
「ある音」のピッチ上下を判断する時に、
合奏環境全体のピッチとではなく、
自分の体内標準ピッチと比較してしまい、且つ、
高低逆転領域&ウワズリツボも作用して、
何故だかヒックリ返ることがあるようです。
ちなみに、絶対音感と相対音感は、排他的でなく、
併存可能なスキルです。
それについては↓に詳しく書きました。
と、これも関連件↓
音感を研ぎ澄ましたり、それを演奏に活かしたり。
筆者は大人になってからも悩み続けたので、
練習法を創っては試しを生徒達と繰りかえしてきました。
その断片を↓に纏めたのでお試し頂ければ幸い。
『なりましょハナウタ美人!_大人ソルフェシリーズ入門編』
http://bit.ly/KT_hanautabijin
『大人が始めるソルフェージュ_大人ソルフェシリーズ2基礎技術編』
http://bit.ly/KT_otona-solfege
ゲシュタルト崩壊みたいな…
紙に書かれた平仮名1文字を、ジッとジッとジ~ッと見つめ続けると、
それが文字として感じられないばかりか、ナンジャコリャ?となる。
人間の性質が引き起こすそういった出来事をゲシュタルト崩壊と呼びますね。
『ゲシュタルト崩壊_wikipedia』
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B2%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%82%BF%E3%83%AB%E3%83%88%E5%B4%A9%E5%A3%8A
音高認識にも似たことは起きるようです。
一番簡単にそれを引き起こす実験。
オシレータやチューナーの発音機能を使い、
正弦波(サイン波、純音)を鳴らします。
電気的に合成された「倍音を含まない音」です。
それに対して、ユニゾンや完全音程となる音を自分で鳴らします。
楽器でも声でもいいです。
ちょっと下げたり戻したり上げたり戻したり。
音高の感覚と操作の佳い練習となります。
始めのうちはピッチの一致具合を自己評価しやすい。
ところが長く続けていると、ナンジャコリャ?ってなります。
合わせる相手(正弦波)の高さが、半音ほど高く感じられたりします。
で、合わせたつもりが合ってない、
あるいは、
合ってるのだが、なんだか信じられない、ってことに。
数分、耳をクールダウンすれば復活しますが、
実際の音楽演奏の場では起きないことなので不思議です。
ん?
起きない、つもりが、実は起きてるとするとオソロシイことですね。
その原因と対処など紹介できるよう研究を進めます。
正弦波・三角波・矩形波・ノコギリ波
さて、シンセサイザー(アナログの)を少しカジると最初に出てくる言葉。
世の中の楽音、その音色を電子合成する時に「素材」となる特徴的な波形が4つあります。
シンセの音造りとは基本的には、
基本振動数の音をいずれかの波形で設定して、
その倍音に当たる周波数にまた任意の波形を重ねる、
ということなのでしょう。
・選ぶ波形
・音圧バランス
・デチューン
などなどで色々な音色を造るってことらしいです。
更に、
様々なフィルター・エフェクト・イコライジングをかけて詰めていくわけですね。
・正弦波 _ 倍音を含まない
・ノコギリ波(正・逆)_ 奇数次・偶数次倍音ともに含む
・三角波 _ 奇数次倍音のみ、高次倍音は含まない
・矩形波 _ 奇数次倍音のみ、高次倍音も多く含む
この4つが音造りの基本波形です。
正弦波以外の3つだとゲシュタルト崩壊的現象は起きにくいようです。
倍音を含むので、音高の特定性が正弦波より高いからでしょう。
ただし、ウナリや差音の観察にあたっては、
正弦波同士での観察よりも複雑に現象します。
それぞれの倍音同士でも差音やウナリが発生するからです。
とはいえ、
その方が実際の音楽演奏の場で聞こえる現象の観察に近いと言えるでしょう。
大事件に遭遇 (≧◇≦)
以前、こんなアプリを作ってもらったことがあります。
・2つの正弦波を出せる
・それぞれ自由に高さを変えられる
・モノラル~ステレオ、のバランスも自由に変えられる
複数音高を合成して実験できるオシレーターのアプリは多いが、
ステレオのバランスを変えられるのは少ないんじゃないかな?
「差音」は空間に実在する物理現象なのか、
人間の身体の特性が引き起こす錯覚なのか、
を実証する道具として作ってもらった。
結果は「ほぼ前者」ってことに。。。
(詳細は稿を改めますね)
久しぶりにそれで遊んでたら、オソロシイ出来事が、、、
ヘッドホンで聴くぞっと、
上の写真のように、左右で完全5度音程を作り、
モノ~ステレオ
を行ったり来たりすると、な、なんと!
ルート(基音)側のピッチが、半音近く上下して聞こえる、のですわ。。。
そのズレ感覚は、上記のゲシュタルト崩壊的現象とピッタリ同じ感じ。
ナンジャコリャ???(>o<)
ん~、
これはどいういったことなんだろうか?
面白いので、色んな人に聴かせてみよう。
で、
バージョンアップとして、
・正弦波以外の波形も出せるように
・左右の音圧もそれぞれ調整できるように
・周波数調整を、最初に五線インタフェイスでザックリとできるように
そんな改良をしてもらってからまた試してみよう。
その実験結果はまたいつか改めてお届けしますね。
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この手の話がお好きな方は↓も楽しんで頂けるかと。
地球に音階が如何に起ち上がったかを古代から物語った良書。
『響きの考古学―音律の世界史からの冒険』藤枝守
あれ? 古い版の方が入手しやすそう…
『響きの考古学 (はじめて音楽と出会う本)』藤枝守
これも古代からの音律史の大辞典、かなりマニアック
『正しい音階 音楽音響学』溝部国光
純正律を現代に活かす意義を歴史と物理と共に説き明かした名著
『ゼロビートの再発見 復刻版』平島達司
その続編、
『ゼロビートの再発見 技法篇 復刻版』平島達司
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