マイナーペンタトニックスケール、つまり、暗い5音音階。
一般的にその言葉が指すものを筆者は「通称マイナーペンタ」と呼ぶ事にしてる。
なぜなら、本来そう呼ぶべき音階は他に在ると思ってるから。
それがどういうことか書き留めます。
※今回は図表中に文字を沢山書いてしまったんで、読み上げ機能で読んでくれてる人向けに画像キャプションを書き込みました。冗長ですみません。
まずはメイジャーペンタと音階の歴史
最初にメイジャーペンタトニックスケールについて理解を共有しましょう。
それは、いわゆる長音階(=メロディックメイジャースケール=旋律的長音階)
の第1・2・3・5・6音をピックアップした5音音階、と説明されるものですね。
素の長音階が Cメイジャーなら↓
その説明は本末転倒…というか、歴史を辿れば、
最初にメイジャーペンタは「在ったもの」で、
7音音階の確立はそれより後だったんじゃないかな?
と共に、
7音音階が5音の発展系として在るわけでもない
んだろな。
メイジャーペンタは、
楽音(音程を明瞭に認識でき音楽演奏に使いたくなる音)から聴き分けられる
「第3次倍音=基音から1オクターブ+完全5度上の音」或いはそれと
「第5次倍音=基音から2オクターブ+長3度上」
を材料に作り出されたと推定され、えらい昔から世界中に在るようです。
7音音階の成立とは、
5音の隙間を埋めるような発展の果て、
だけではないんだろな。
ピタゴラスは第3次倍音を12回繰り返して並べて、
12の半音(ほぼ)からなる12半音階を見つけました。
(1音目と13音目が一致するはずがズレてたって事件は起こり、
のちに平均律が作られるまで悩みの種にはなりましたが。)
ですが、12半音階があるからといって、
全全半全全全半
全音が5つ、半音が2つ、から成る「ある組み合わせ」の7音音階が成り立つ理由にはなりません。
ギリシャの時代、流行ってた4弦の琴、
その調弦法に代表的な幾つかのうち最も流行ったのが「ダイアトニック」と呼ばれ、
今で言えば「全全半」つまり長音階の下半身4音、に近いものだったようです。
ちなみに、長音階の上半身も同じ音程構成です。
のちに、それを上下2つくっつけて1オクターブを満たす7音音階を成し、
それをギリシャの4音音階になぞらえてダイアトニックスケールと呼ぶようになったそうです。
そのダイアトニックスケールの音程関係を「整える」ように活かされたのがピタゴラスの研究成果だった、と筆者は捉えてます。
ピタゴラスの「繰り返し」の6回目までに、ダイアトニックスケールに含まれる7音が含まれてます。
それは偶々(タマタマ)なんじゃないか、と思ってます。
とはいえ上述件と組み合わせると、
数理的「作業」の結果、最初に導き出される7音が世界的に受け容れられやすい組合せだった、
…んだなと納得する材料にはなるでしょう。
ともあれ現代では、
ペンタトニックスケールとは
「7音音階の 1・2・3・5・6 だ」
と思ってよいのでしょう。
その前提に基づき話しを進めますね。
ペンタトニックスケールの効用
7音音階よりもキャラクタを明瞭に力強く示せる。
7音だと起こる和声とのコンフリクト(衝突)を避けやすいので、節回しがより自由になる。
似たようなことは和声にも起こりますね。
テンションを多く含むコードよりもトライアドの方がキャラクタを明瞭に示せる。
旋律音との衝突も避けやすい。
似たような作用が音階にも起こるわけです。
通称マイナーペンタトニックスケール
一般的には上の1つ目の図例がマイナーペンタ(略称)と呼ばれてます。
それって、メイジャーペンタの第5モードです。
メイジャーペンタの第5音を主音と捉えて並べ直したもの。
転回形「でしかない」ってこと。
なので、
それぞれ固有なスケールの名前として等価に並べ立てるのはドウカ?と思ってます。
併せて、
本来マイナーペンタと呼ばれるものは他にあると思ってます。
なので上図を「通称マイナーペンタ」って呼ぶことにしてます。
ですけど、
通称マイナーペンタって「形」が世に広く受け容れられてきたのは事実。
「メイジャーペンタありきで存在するものでなく、生まれつき通称マイナーペンタって形で湧いたものだから」
だと思ってます。
クラシカルな楽典だと通マイナペンは、
「短音階(マイナーな7音音階)を代表すべく選び出された5音」
ってな説明がされてたかと。
少なくとも現在のポピュラー音楽で汎用される通マイナペンは、
昔々アメリカで生まれたブルーズの誕生と共に湧き、
新たな音楽の歴史の背骨であり続けてきた、のでしょう。
その「湧き方」には、ギターって楽器のサイズと黒い人の手指のサイズが関わってる
と筆者は想像してます。
沖縄音階・ブルーノート音階と弦楽器
ちょっと寄り道。
沖縄音階って三線の棹サイズと手の大きさに由来するんでないかな?
三線の調弦は低い弦から上に向かって
「1度・4度・1度」or「1度・5度・1度」or「5度・1度・4度」
教則の類いを見ると大抵、ギターで言うとこの
0フレット、2フレ、4フレ、5or6フレ
を使って、1番低い開放弦を移動ド唱法的にドと呼ぶなら
(1・4・1調弦だと)
ドレミファ・ファソラシ・ドレミファ
と運指するって書いてある。
1番低い開放弦をソと呼べば、
ソラシド・ドレミファ・ソラシド
けど、数年前はじめて沖縄に行った時、多くの人が
「開放弦+2カ所のポジション」
だけで引き倒してるのを見た。
民謡の伴奏でリズムギターっぽく。
オツムひねって想定してみるに可能性は2通り。
1・4・1 の調弦だとすると、、
1)
開放・4フレ・5フレ
で最低の開放弦をソと呼ぶとすると
ソシド・ドミファ・ソシド
2)
開放・1フレ・3フレ
で最低の開放弦をシと呼ぶとすると
シド(レ)・ミファソ・シド(レ)
決まった指の動きだけっていう最も簡単な運指で沖縄音階が完成するってこと。
ついでに、
沖縄のメロディーで、
「旋律の補助音として「レ」は使われるけど「ラ」は殆ど登場しない」
のも説明がつきます。
つまり、音階生成の発端が「三線の棹サイズと手の大きさ」に依拠してるんではないかと想像したわけ。
ところで、マイナーブルーズスケール↓
これはブルーズィな旋律の核となる音階、の最も原始的な形。
通称マイナーペンタに #4 のブルーノートが付加された音階。
長音階に属する和声の上に、この音階での旋律を乗せるとブルーズが湧く。
実は #4 の付加以前にそれは機能します。
つまり、メイジャーな和声の上で通称マイナーペンタを乗せるだけでブルーズは起動するってこと。
それ=通称マイナーペンタも、ギターって楽器と黒い人の手指サイズとが相まって生まれたんでないかな?
だとすれば、
7音の短音階ありきで5音がピックアップされた結果ではなく、
うまれついての通称マイナペンタって姿だったんだろな、と筆者は想像してます。
ブルーズはマイナー7音音階ありき、ではない理由
さらにまた寄り道。
西洋の音階組織研究の歴史は、ピタゴラスの「第3次倍音として聞こえる完全5度を何度も繰り返して…」って研究結果に端を発したと言えるでしょう。
長音階こそがモノサシとして扱われ、五線の仕組みも長音階を最も簡単に書き示すように作られてるくらい。
それこそピタゴラスの作った世界観に依拠し続けてきた証かと。
20世紀にジョージ・ラッセル先生が提唱した「リディアンクロマチック理論」それも、リディアンこそをモノサシ(≈ ゼロ点)としたってのはピタゴラス的世界観なんだと筆者は捉えてます。
対して、
黒い人達がアフリカ大陸で培ってきたハーモニー感覚と、そこから湧く音階の形や音程の感覚(=旋律感覚に直結)は、第3次倍音にとどまらなず、より高次に渡る倍音列の「聴き分け」を材料にしてるのかと。
そこで発見される最初の7音音階は リディアン♭7 です。
そこにある諸音程(微細な)は平均律とも純正律とも随所にズレがあります。
その音程感覚と、新大陸での西洋楽器との出会いは、ブルーズ(=19世紀末以降のアメリカ音楽=現代のポピュラーミュージック)を産む衝突だったんだろうな、と筆者は捉えてます。
その点詳しくは↓に書きました。
『明解!ツーファイブで使える音階 ~ブルーズの謎を解く~』
http://bit.ly/KT_blues_251
つまるところ、そうした視点に立つならば、
西洋の短音階は、ブルーズを産む種としての通称マイナペンタの源泉ではない、
って思えるわけです。
それはまた、
バークリー音楽院のソルフェージュ授業で、
マイナー系の音階もトニックを「ド」と歌う移動ド唱法を採用してる理由でもあります。
そのことはまた稿を改めて詳しく紹介しますね。
バークリーのソルフェはマイナー系も主音はドって?
…と言いつつザックリと…。
ジャズであれ機能和声法の範疇にある内なら、
マイナー系のトニックは「ラ」で充分に便利。
・モーダルな音楽
・ブルーズ色濃厚
・メイジャ系とマイナ系を行き来するモーダルインタチェンジが頻繁
・一時転調 or 転旋への対処
…そんな状況ならマイナー系でもトニックは「ド」式が遙かに便利。
あるトーナル(主音とその倍音列)に対して、各音程がどんなキャラクタを持ってるかを1文字で明示できるから。
つまり、
音階がメイジャー系であれマイナー系であれ1つのモノサシですぐにキャラクタを測れる
…からってこと。
ん~、やはり詳しくは改めて。
じゃ、本来のマイナーペンタって?、の前に…
本題に戻しますね。
結論から言えば、
「マイナー系の7音音階から 1・2・3・5・6 をピックアップした5音音階をこそマイナーペンタと呼ぶべし」
なんだろな。
さて、それを詳しく説明する前に「マイナーってどゆこと?」を理解しておきましょう。
音階の知識整理の前に
「マイナーってなんで暗いの?」については↓をご参照ください。
マイナー「系」の音階とは、、、
クラシック楽典だと「暗い音階」とは
長音階の第6モード(=ナチュラルマイナースケール=自然短音階)とその変化系としての、
・ハーモニックマイナースケール=和声的短音階
・メロディックマイナースケール=旋律的短音階
「だ」って書いてありますね。
(↑右側は、比較しやすいように主音を C に置き換えました。赤い音は自然短音階と違う箇所)
_その生成過程推察は↓
いかにも「こいつらこそがマイナーだ!」って感じですよね、
でも、
現代のセンスで言うならメロディックメイジャーの
・第2モード・ドリアン
・第3モード・フリジアン
もマイナーな音階です。
・第7モード・ロクリアン
は第5音が減5度で、短3度音も含むのでディミニッシュト系。
メイジャーかマイナーかザックリ二択で言えばマイナー系。
ただし、
完全5度を含まない旋法は、主音を主音たらしめる引力が弱いので、旋法(=旋律の核となる音群と、それらの持つ主音特定引力)としての確立性は弱い、
つまり、
完全5度を含む諸旋法と比べれば「我こそはロクリアンなり!」ってアイデンティティが弱い。
とはいえ、
それを作旋律の核にすることもあるので、現代では独立した旋法としても扱えるでしょう。
(↑右側は、比較しやすいように主音を C に置き換えました。赤い音はエオリアンと違う箇所)
つまり自然短音階も
第6モード・エオリアン
「でしか」ありません。
で、諸モードの源泉というか母体になる音階(=ペアレントスケール)を
メロディックメイジャー(=旋律的長音階、いわゆる長音階のこと、略称・MM)に限らず、
・メロディックマイナー = 旋律的短音階 Mm
・ハーモニックマイナー = 和声的短音階 Hm
・ハーモニックメイジャー = 和声的短音階 HM
まで拡張するなら、マイナー系音階の可能性は更に拡がります。
(↑赤い音は特徴を決定づける箇所)
それらをペアレントスケールと捉えるのは、
「全全半全全全半」
という並びの MM(≈ ダイアトニックスケール)の転回形「ではない」独自の音程構成を持つのが理由です。
転回させても「他のナニカと同じ」ってことが無いってわけ。
そうした視点からすると、
MM の第6モード「こそが」暗い音階の代表選手だ、
って限定的な捉え方は最早できないな、ってなります。
もちろん、クラシカルな短音階の概念は、
西洋音楽史のメインストリームにある「機能和声法」って価値観の必要を叶えるのに最適なのは確かです。
ちなみに「和声的長音階」って名前とその姿について、なぜか諸説あります。
その点について詳しくは↓
…と、自然短音階を「自然的短音階」とは呼びたくない理由↓
さて、もうひとつのペアレントスケール。
色んな名前で呼ばれますが筆者は、姿が判りやすいので「ダブルハーモニック」と呼んでます。
中近東風味が濃厚。
半音が2連続する箇所があるので節回しに気をつけないとキャラクタが揺らぎやすいのも特徴(その点はブルーノート系音階群も同様ですが)。
これを源泉とした諸モードを作曲に使うこともあるのでペアレントと扱ってよい、とは思うが、なんとなく一線を画したい感じ、、何故だろう?(笑
じゃ、本来のマイナーペンタって?
ようやく核心です。
本来マイナペンと呼びたい音階を幾つか例示します。
↑は MM の第2モード=ドリアンとそのペンタ。
オツムを整理しやすいように、
・C MM の第2モードとしての Dドリアンからのペンタと、
・C音を主音とした Cドリアン(Bb MM の第2)からのペンタ
を並べました。
筆者はこれをドリアンペンタと呼ぶことにしてます。
日本の音階の名前だと「雲居調子」
赤い音はキャラクタリスティックノート(特性音)。
そのモードのキャラを決定づけるのに重要な音。
いわゆるアヴォイドノート(コードスケールに於ける忌避音)とは限らない。
↑ MM の第3モード=フリジアンとそのペンタ。
C MM の第3モード Eフリジアンからのペンタと、
Cフリジアン(Ab MM の第3)からの。
このフリジアンペンタの第5モードは沖縄音階。
↑ MM の第6モード=エオリアンとそのペンタ。
C MM の第6モード Aエオリアンからのペンタと、
Cエオリアン(Ab MM の第6)からの。
このエオリアンペンタ、日本の音階の名前だとその第4転回形(=第4モード)が都節と一致。
それを陰旋法・陰音階とは今はあまり呼ばないらしい。
ちなみにメイジャーペンタの第4モードは律音階と一致。
第5モード(=通称マイナペン)は田舎節 or 民謡音階。
陽旋法・陽音階という呼び方、最近はしないらしい。
で、 MM第7モードのロクリアンは、
5の音が完全5度でなく減5度、
それゆえに主音が主音として安定する力が弱いので固有の旋法としては扱われにくい。
とはいえ、強いてそれを旋律の核として作曲するのも有り得る。
なのでそのペンタを一応挙げておくと↓
で、だ、このように、
MM をペアレントとする諸モードだけでもマイナー系ペンタは4種類抽出できます。
他の3つのペアレントからもまた幾つかずつ湧きます。
幾つか x3 = 膨大(笑
あまりに煩雑となるのでここでは省いておきます。
そのうち網羅して紹介しよう、かな。
ついでにメイジャーペンタもさ…
いわゆる長調(≈イオニアン、MM 第1モード)の1・2・3・5・6ってだけでなく、
MM 第4モードのリディアン、第5モードのミクソリディアン
にもメジャペンは内在されてます。
もちろん他のペアレントスケールの中にも幾つかずつありますが、ここでは省いておきます。
上記3つのモードは「いずれも」第2音と第6音がナチュラル(=MM と同じく)なメイジャーの旋法からのペンタだってのがメジャペンで伝わります。
逆に言えば、3つのモードのキャラクタ差を決定づけるのは
「第4音と第7音がどんな音程なのか」(上の図で赤くした音)
であって、それを表現するには各メジャペンでは役不足。
それを満たすには(7音全部を使わないとしたら)他の方法が必要。
・それぞれの1からでない別のペンタとかを使って、ハーモニーとの相互作用で表現する
・ペンタを 1,2,3,5,6 に縛られないように構成する(結局↑の転回形になりがち)
・テトラトニック(4音音階)を、1を含もうが含むまいが、必要な特性音を含めて構成する
…などなど。詳しくは稿を改めますね。
なんですけど、キャラは曖昧でも、とにかく「メイジャーだ!」は伝わる。
のと、
むしろ、穴あきの部分に可能性を拡げる選択としてメジャペンを、って捉え方もできます。
ポジティブな気持の設定次第で使い途は広がるわけね。
たかがメジャペンされど…ってなことでした。
スリートニックシステム、、、
蛇足追伸。
メイジャートライアドあるいはメイジャーペンタって、マイナーよりも主音の主音としての(ひいては旋法としての)安定性が高い。
なぜなら倍音列の早い内に登場する音でできてるから。
つまり、長音階の中には3つの主音候補(ある調を代表する音)が併存してるってこと。
機能和声法ってその3つの間をウロウロするものなのだな。
「3つ」は即ち「トニック・サブドミナント・ドミナント」。
ジョン・コルトレーンの「ジャイアントステップ進行」を「3トニックシステム」と呼ぶけど、それに倣うなら長調も同じ。
前者は「音程的にシンメトリックな3トニック」、
後者は「アシンメトリックな3トニック」なのね。
というわけで…&会話の平和の為には…
転回すれば同じじゃん?
って奴らをそれぞれ独自なものとして並べ立てるのは、ナンカな~って思ってますってことです。
「通称マイナーペンタ」をマイナーペンタと呼ぶこと、
それは、それで事足りる環境ならそう呼んでいいけど、
必要な時には厳密に呼び変えることで、
音階の出来事をより精妙に捉えて使えるようになる、
と思ってます。
で、会話の際に大切なこと。
相手がこのような厳密な呼び分けにこだわってないと察せられるなら、
自分も無邪気にマイナーペンタって呼ぶのが平和ですね。
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