短調でも主音はド、バークリー的階名唱法の謎を解く_追伸、Hard days night ビートルズはスゲぇ

「バークレイ式?」
階名唱法(=ソルミゼーション)の1スタイルをそう呼ぶのを見かける。
先ず「バークリー」ですよ。
学長の名前が Eriot Lee Bark さんだったから。
入学式で本人がそう言ってました。

「短調でも主音をドと呼ぶ」
これについて
「そう習ったからそうなのだ」って説明を見かける。
大切なのは
「何故そうなのか」「如何に使うか」かと。

この手の12音式階名唱法はハンガリーのコダーイ先生がルーツかと。
その後色んな人が色んな読み仮名を提唱してきた。
その内の1つでしかないしバークリーの発明でもないはず。
だから「バークリー式」と呼ぶのも相応しくない。
とはいえ、ドレミ…の元々の姿を極力とどめてる点は他と比べて秀逸と思う。

短調でも…は確かに特徴的。
何故そうなのか。
発端はブルーズと理解してます。

ブルーズ系の音楽家、とくにギタリストと話すと
「キーはなに?」「G!」
「え?メイジャー?マイナー?」
「Gだってばよ!」
って会話はありがち。

なぜかと言えば、
メイジャーもマイナーも観点には無く「G」だからだ。
そこに見えるのは「主音はG」で、そこを中心に、西洋の機能和声的価値観で言えばメイジャーとマイナーを、旋律も和声も「行き来する」って世界だから。

☆追記_20200307_
その世界観はブルーズがあったから存在する全ての音楽に共通です。
R&B, Soul, Funk, Rock & Roll, Rock, Bluegrass, Boogaloo …
それらがあったから存在する全ても影響下にあります。
_追記ここまで☆

ジャズでは、アドリブの素材とする楽曲がメイジャーでも、ブルーズのスイッチが入った途端に、ブルーズの世界の流儀で事が進む。
そこでは、メイジャー・マイナーいずれでも「主音はド」とすると煩雑を避けられます。

モードの時代になると様々な旋法を行き来するわけで、中にはメイジャーともマイナーとも特定しにくい音階もある。
そうすると尚更に「主音はド」方式が有用となる。

そういった必要のもとに「短調でも主音はド」は成り立ったと思われます。

なので、シンプルな機能和声的音楽
(=長調あるいは短調のいずれかを明瞭に特定できる)
の場合は「短調の主音はラ」方式を選んでもいいわけ。
使う人がそれを便利と思う限り。

ただし、あの学校では、それだと不便だからソルフェージュの授業では「主音はとにかくド」と言うのでしょうね。

何故なら「使い分け」を理解させるには、学生達に
・機能和声的
・旋法的
の理解をさせねばならないから。

それだと、1年生(アメリカの高校を出たばかりの…)の最初から理論とソルフェを同時スタートさせるにあたって、理論系の先生に大変な負担を強いるわけで。
アメリカ的合理性なんだろうな。

 

後日追記_20200307_補足説明

半年以上前に書いたもの。
今読み返すと、なんと不親切なことか。
本件、たいていの人の理解の為には
 ・機能和声的とは?
 ・旋法的とは?
の説明が必要ですね。

本稿の本旨を掻い摘まんでみますと…
「移動ド式ソルミゼーション」には、
 ・機能和声的な
 ・旋法的な
の2種類があり、高校以前の学校で普通習うのは機能和声式。
なぜなら「長調か短調か」だけで済む教材ばかりだからです。

もしも、リトル・リチャード、エルヴィス・プレスリー、ディープパープルなど教材にする未来があるなら、階名唱するとすぐ破綻するでしょう。
現状でビートルズの曲は学校教材にされますが、Yesterday はあっても Hard days night はありません。
前者は機能和声の世界で説明がつくからです。
後者はブルーズの世界(旋法的世界の一種)の出来事が頻出し、クラシカルな和声法では説明しきれません。
そんな所で旋法的な階名唱法は活躍します。

なぜかここで Hard days night の分析

☆☆☆ここは寄り道☆☆☆

上記の「説明しきれません」について、
とってもザックリと説明しときますね。
Hard days night は、最初ジョンの歌うAメロ、

1)
トニック(Ⅰ)のハーモニーが G7、それを代表する音階は
G, A, B, C, D, E, F, G Gミクソリディアン
1 , 2, 3, 4, 5, 6, b7, 1 Gメイジャーの7音目を半音下げた音階

2)
サブドミナント(Ⅳ)のハーモニーはC7
 C, D, E, F, G, A, Bb, C Cミクソリディアン
 1 , 2, 3, 4, 5, 6, b7, 1 Cメイジャーの7音目を半音下げた音階
それとニアイコール(構成音は同じってこと)なのが↓
 G, A, Bb, C, D, E, F, G Gドリアン(Gが主音でマイナー系のモード)
 1 , 2, b3, 4, 5, 6, b7, 1 Gメイジャの3と7にフラット

1)と2)
主にこの2つのコードを右往左往します。
つまり、GメイジャーとGマイナーの響きを行ったり来たりしてるってこと。

さてⅠ度のハーモニーとミクソリディアンでは、
音階の下部構造はメイジャースケールと同じなのでメイジャー系として響くが、
上部構造は7度にフラットがついてる(そこはマイナー系ってこと)。
機能和声の世界ではその音階/和声は、メイジャートニックとしては扱われない。
しかも、Aセクションのお尻辺りのメロディーにて、
 3の音(B)ではなくて、
 b3の音(Bb)が
 リズム隊の出す3の音(B)と半音ブツカリで共存している。

Ⅳ度も、機能和声の世界ではメイジャー7th のコードになるはずだが、
これもまたその Ⅶ 度にフラットがつく。

Cメイジャー7th は3の音(E)を含むが、
その上で旋律は F♮を歌っている。
半音でクラッシュするばかりか、機能和声の世界では、
メイジャーコードに対して最もクラッシーゆえアヴォイドノート(避けるべしな音)だ。

(後日訂正。その箇所、Aメロ3小節目のコードはFでした。のでコードにインナーです。が、↑の説明のようなことはブルーズの音世界では普通に起こることです。)

つまり、これだけでも機能和声オンリーのセンスでは説明のつかないことだらけなわけ。
ですが、ブルーズ界の理屈では全て説明できます。

知らねば、ナンジャコリャ?
知ってれば、だよね〜イイよね〜、なわけ。

でね、ビートルズがやはりスゴイのはその後なのですわ。
Bメロでヴォーカルをポールに交代するんだけど、
平行短調のEマイナーに転調。
なのだが、その方法が洒落てて、
B7を使わず、BmとCをウロウロするだけでEマイナーに行ったと聞こえる。
(ここでB7を使うってのが、機能和声の世界では最もインスタントに平行短調へ転調する方法)

(また後日訂正。B-とCではなくて、B-からE-にズドンと行ってましたね。詳細はコメント欄への返信を御参照ください。)

何故ならば、Aメロでは F#音(GメイジャーのⅦ)は居ず、
替わりに F♮が居た(Gミクソリディアンの bⅦ)。

この F と F# が、コッチとアッチ、2つの世界を行き来するスイッチになってる。

サビに入った途端にF#音のメロディーが Bmの上で鳴った途端に、
それは「E エオリアン(Gメイジャの第6モード)のⅤ度だ」って聞こえるのだな。
サビの4小節目で Em コードにて一旦落着し、そこから並行長調の Gメイジャーにスルっと行き、そこからドミナントの D7に導き、また Aメロのジョンに渡す。

(後日訂正。↑はウロオボエで書いたので間違い。4小節目もB-のままですね。詳しくはコメント欄での返信を御覧ください)

なにがスゴイって、サビの間は機能和声的な作曲なのですよ。

(後日追記。機能和声的というか、全くブルーズ成分を含まない純粋西洋音楽的、という方が適切かもですね。で、サビのケツから2小節目の「C7」それがスイッチでまたAメロのブルーズの世界に戻れるって仕組がまたシビれます。)

ブルーズ的な旋法の世界を「黒」
西欧ピタゴラス的な機能和声の世界を「白」
と呼ぶならば、
Hard days night は黒白を行ったり来たりしてるわけ。

このセンスというかヤリクチは、当時ビートルズの客層をエルヴィス以上に拡げる力になったし、その後のポピュラー作曲に大きく影響を残した、と筆者は思ってます。

☆☆☆寄り道ここまで☆☆☆

閑話休題_寄り道が長いってばよ

旋法式なのを理解するには理屈を学習する手間と時間が必要。
それが面倒というか、とにかくソルフェージュの実践を始める為に
「メイジャーでもマイナーでも、どっちともつかない旋法でも、主音(旋律と和声の核になる音)をドと呼ぶぞ」
と約束してしまう。あ、バークリーのソルフェの先生が生徒にね。
すると、楽理の先生は慌てて「ここに書いたような」説明を生徒達にしなくてもよくなるわけ。

その後若者達は、授業で教えてくれる、というか己の学びの中で、
2通りのソルミゼイション法の存在と使いこなしを掴むものだが、
それを悟らなかった者は「とにかくそう習ったから」
って説明をしてしまうのでしょう。
 
てなわけで、近いうちに
 ・機能和声的とは?
 ・旋法的とは?
の説明を書きますね。
 
待ちきれない方は↓を御参照くださいませ。

☆機能和声=コーダル:旋法=モーダルを乗りこなすソルミゼイション(音解唱法)の理解を練習を網羅
『カエルとアラレで音階名人・第2巻』
 http://bit.ly/KA_kaeruarare2

☆↑の練習を効率よく進める為のソルフェージュの基礎の基礎
『なりましょハナウタ美人!_大人ソルフェシリーズ入門編』
 http://bit.ly/KT_hanautabijin
『大人が始めるソルフェージュ_大人ソルフェシリーズ2基礎技術編』
 http://bit.ly/KT_otona-solfege

☆音の意味合いを理解しながら進める音階練習の基礎の基礎
『カエルとアラレで音階名人・第1巻』
 http://bit.ly/KT_kaeruarare1

☆旋法的ソルミゼイションの実践的活用に触れる項目あり
『明解!ツーファイブで使える音階 ~ブルーズの謎を解く~』
 http://bit.ly/KT_blues_251

🌼

更に後日追記

20230107 の追記。
久しぶりに読んでみて、やっぱり不親切だな〜と痛感(^_^;
最近ようやくこの件、簡潔に説明する方法を思いついたんで、
近いうちにゆっくり別稿として書くつもりです。

コメント

  1. Scheveningen より:

    “主音がド” というだけでは、Takedaさんの言わんとしているところ、バークリーがどう教えているのかがよくわかりません。例えば、1)ハ長調でもイ短調でも、ドに着目すればどちらもド=Cなので、そういう意味で、ハ長調でもイ短調でもキーはCだ、と言っているのか。この場合、本来の意味のでの主音はハ長調はド、短調はラです。ハ長調とは、ハ音をドにして長調で歌いなさいという意味、イ短調とは、イ音をラにして短調で歌いなさいという意味だと音楽の授業で習いました。それと一致しています。
    “キーは何?と聞いたら、G! と答えた” とありますが、上記1)を前提として、ト長調とホ短調と、どちらもドはGなので、Gだと答えたのかな?と。例えばキートランスポーズのあるシンセで、ト長調、ホ短調、そのどちらの曲も、極力白鍵だけで弾こうとしたら、どちらの場合もGの鍵盤を押しながらトランスポーズボタンを押したりするので、その場合、調の名前は別に気にしなくてよいわけです。そもそも、長調か短調かはっきりしない状態では、こういう会話で十分でしょう。鍵盤の配列は全く同じ、ただ、弾く側の人間が、メジャースケールはCから始まるドレミファソラシド、マイナースケールはAから始まるラシドレミファソラを意識する、その違いだけですし、長調か短調かはっきりしないなら、それさえも意味がない。でも本来の主音はやはり長調はド、短調はラです。もし、水戸黄門のテーマ曲を階名で唄う場合、♪人生楽ありゃ苦もあるさ♪ の箇所は、ミーレドーレーミーミーレードーレードシーソーラーです。

    2)あるいは、ハ長調は主音がCでCがドになる、イ短調は主音がAでAがドになる、という意味でしょうか? 一部の人は、1)を間違って解釈したために2)のような方法を考え出したらしい、と自分は理解しています。なので、日本の小中高の音楽の授業で習う内容とかなり食い違います。この方法で、同様に水戸黄門を階名で唄うなら、ソーファミ♭ーファーソーソーファーミ♭ーファーミ♭レーシ♭ードー になるらしいですけど、。

    • baritake より:

      Scheveningen さん、コメントありがとうございます!
      久しぶりに本稿読み直してみて、なんて不親切だったのかと反省しました(^_^;

      この内容の理解には「機能和声的ドレミ」 と 「旋法的ドレミ」 が別モノって理解が前提で、学校の音楽授業では機能和声的ドレミあるいは固定ド式ドレミにしか触れないのが一般的なのに、「旋法的ドレミとはナンゾヤ」に一切触れてませんでした。
       
      簡単に言ってしまえば、
      現代では「長調・短調」以外の音階を核とする音楽も多様に存在し、それらを階名で歌いこなすには工夫が要るってことです。
      その時に、旋法的ドレミ=「長調であれ、短調であれ、どっちともつかない旋法であれ、旋律と和声の核となる音=主音をドと呼ぶ」が活用されます。
      その際、12音式階名唱法が活躍します。
      それら方法は、日本の小中高で教えられる先生は殆ど居ませんし、扱う教材の殆どが「長調・短調」で事足りるので必要も生じません。
      ですが、例えば将来、ディープパープルの曲が教材になったとしたら必要になるでしょう。
       
      水戸黄門のテーマを例に選んで頂いたのは慧眼と思います。
      その曲は短調の一種ではありますが、和声と旋律の構造からすると厳密にはエオリアンモードの旋法的作曲です。
      自然短音階を核とした曲なわけですが、ドミナントコードつまり和声的短音階は登場しません。
      そういった場合、旋法的だから主音はド、とするのか、明かに短調と聞こえるから主音はラ、とするのか、
      その判断は、実は歌う人の自由なわけで、ナニの便利のためにドチラを選ぶか、その時に何を考慮するのか、
      それらを考えるのは愉しいことなのです。
       
      近日中に稿を改めて平明な説明を書きますので、しばしお待ち下さいませ。
      その時に水戸黄門も活かさせていただきますね。

      待ちきれない場合に向けて「補足説明」を書き足しましたので御参照ください。
      今後とも御注目よろしくお願いいたします。

  2. Scheveningen より:

    A Hard Day’s Nightって、階名で唄うにはかなり簡単な部類の曲ではないですか? 僕がどう感じるかを言わせていただくならば、キーはAメロもBメロもGメジャーです。もしオケなしで唄だけ聴いたら混乱するかもしれませんが、ベースラインを聴いたらどう考えてもシンプルなGメジャー。ベースラインが、AメロはGに始まってGに終わる。Bメロでも、5小節目でGが出てくるから、曲全体を通して、Gに寄り付こうとする感覚が強いので、途中で転調しないと階名が出てこない、という感覚もほとんどなく(唯一Aメロの最後の♪feel alright のところがちょっと迷うだけ:Gメジャーのまま行くか、Gマイナーに変えた方がしっくりくるか)、すらすらとドレミが頭の中で浮かびます。

    Aメロ;
    ♪ミファミソーソーソー
    ファソファソシ♭ー ソファソーファミー
    ミファミソーソーソー
    ファソファソシ♭ー ソファソーファミー
    ソソソ♯ララ♭ソファ ラララ#シシ♭ラソ 
    ミファミソー(ドー ミ♭ファーミ♭ー) 
    ※カッコ内を転調したら♪ラー ドレードー

    Bメロ
    ♪ソドーシー ドシララーシドシー
    ソシードー ドシララーシドー レー レー  

    • baritake より:

      Scheveningen さん、返信が遅くなりすみません。
      丁寧な御質問を有難うございます。
      その聞こえ方でよいと思いますよ。
      メロディーだけで言う限りは。
       
      僕がどこら辺をスゴイと思ったかを解説しますね。
      とりあえず、和声/旋律の骨格の捉え方に、ヨーロッパのクラシカルな方法以外にも拡がりがあるのを感じて頂ければ嬉しいです。
       
      Aメロ、
      G C |G |F |G |
      G C |G |F |G |
      C |D |G C7 |G7(#9) ||
       
      Ⅰ段目。
      4小節間を亘ってみると、トーナルが G なのは明かですね。
      3小節目にコード「F」があります。
      これはいわゆるメイジャースケールのダイアトニックには含まれないコードですね。
      機能和声的(コーダル)に言えば、Gがトニックで「短7度を含む」モードとのモーダルインタチェンジ(近親調和音一時借用転調)となります。
       
      メロディーを見ると、その箇所でやはり Fナチュラルを歌ってます。
      で、大切なのは、その詳説の頭の音が Dってことです。
      旋律音が和声に沿う (非和声音→和声音という解決を意図しない限り) のを旨とするクラシカルなセンスに依れば、そこは C音になりそうな所ですよね。

      つまり、クラシカルな機能和声とは違うセンスで作られてるらしいゾ、ってことです。
       
      それらが意味するのは、
       ・この1段を通してコード進行全体で 「Gミクソリディアン・モード」 を表している。
       ・メロディーはコードの変化に逐一追従せずに Gミクソリディアン・モードの旋律として成り立っている。
       
      (Aメロは単なる「Gメイジャー」では無いってことです)
       
      これは旋法的(モーダル)な捉え方で 「複数の和声の連続が、あるモードを表す」 という感じ取り方です。
      その場合旋律は、その時に鳴っている和声との間の不協和を厭わない限り、そのモードの中で自由に描けます。
       
      例えば2小節目の「ソ」の音はコードネームからは9thの音ですが、それといった不協和感は感じませんよね?
       
      ちなみに、Gミクソリディアンは、
      G A B C D E F
      で、メイジャースケールと比べると、7度がフラットしたメイジャー「系」のモードです。
       
      その受取り方を補完するのは
       ・楽曲のスタイル
       ・そのスタイルの歴史がもたらすもの
      です。

      スタイルとしては、Aメロは典型的なロックンロール。
      Bメロでは、和声と旋律の関係にヨーロッパ和声の姿が見られます。
      とはいえ完全に機能和声の用件を満たしてはいないので、厳密には Eエオリアンモードの旋法的な作曲と言えるでしょう。
      その末尾で素晴らしい橋渡しの発明が見受けられますが詳細は後ほど。

      ブルーズ〜R&B〜ロックンロールの歴史が培ったスタイルがあります。
      (ロックンロールは、チャックベリー、リトルリチャード、ボーディドリーなどアメリカ南部の黒人達が作ったスタイルです)

      その 「スタイルの特徴」 は、リズム・コード・メロディ、の全てに亘って存在します。
      この曲冒頭にある 「Ⅰ、Ⅳ、Ⅰ」 は特徴的な進行です。
      これを聞くだけで、ブルーズの影響下にあると認識されます。

      この演奏では 「G C G」 ですが、潜在的に 「G7 C7 G7」 と感じ取れます。
      それはロックンロールの既知体験によるものです。

      冒頭の旋律 「ソ〜ソ〜ソ」 のすぐ下にハモリを付けるとしたら、
      1音目が 「ミ」 なのは迷いようがないでしょう。
      2音目をコードネームに沿うとしたら 「ファ」 でしょうか。
      悪くはありません。が、長2度の緩い衝突を厭うなら無しでしょう。
      では、少し下に飛んで 「ド」 でしょうか?
      1声目の一直線と比べるとラインがギクシャクしすぎだし、出来上がる完全5度の響きが、1音目の短3度と比べると静的で空虚すぎます。
      ならば、、
      クラシカルに 「メイジャースケールのダイアトニックの音から」 とすると最有力候補は C△7 の長7度にあたる 「ミ」 でしょうか?
      そうすれば1声目と同様に一直線になりますね。

      さて、それを試して聞いてみます。
      はい、奇妙です。

      正解は 「ミ♭」 です。
      何故ならば、ブルーズ以来の歴史が&
      その聴体験の積み重ねがそれを求めてるからです。

      コードネームにすれば 「C7」 が潜在されてるってことです。
      つまり、Gミクソリディアンには含まれない 「Bb」音が登場します。

      ここに至って、ブルーズ以来の歴史はこの冒頭部からして、
      1段目の4小節間を単に 「Gミクソリディアンだけには特定できない」 こととさしめました。
       
      結論を言ってしまうと、ブルーズという、旋法的音楽の中の1スタイルは(キーを Gとすると)
      G A Bb B C C# D E F G
      という音列を和声/旋律の核とします。
      (なぜ C# が居るかは長くなりますので 『251で使える音階明解〜ブルーズの謎を解く』 を御参照ください。)
       
      しかも、その音列の内より、どんな和声をその時点で使うか、により、旋律に使って効果的な音か否か、その「濃淡」が変幻します。

      簡単なルールはあって、
      Ⅰ度の和音の上で ミとミ♭ は両方ともサウンドグッド、その2音の関係がブルーズフィーリングを生み出す。
      Ⅳ度の和音の上では、ミ♭はOKだが ミ♮は不気味になります。そこでは、ミ♭とレ の関わり合いがブルーズを産みます。、、などなど。
       
      ザックリ言ってしまえば、メイジャーとマイナー、両方の性格を共存させた音響核に依って立っているのがブルーズの特徴です。
       
      というわけで、Aメロ部分はクラシカルな機能和声でのメイジャースケールのダイアトニックと転調という範疇では捉えられない、ということです。
       
      さて、Bメロ。
       
      B-/F# |E- |B-/F# | |
      G |E- |C6 |D ||
       
      Aメロの間、Gキーのブルーズサウンドであるのを特徴的に表したのは「F♮」です。その次に「Bb」。

      Bメロに入った途端に「F#」の音が鳴ります。
      しかも!
      コードは B- なのに、ベースはわざわざ「F#」を選んでます。
      それ、ワザワザです。
      メロディーとユニゾンって美味しくないことをしてまで!です。
      (それはAメロ3小節目のF♮も同じ)
       
      F# を鳴らすことで、Aメロのブルーズとは違う世界=クラシカルなGメイジャーの世界に「行ったよ」を表せます。
      そこでヴォーカル交代するのも、世界観を変えた!
      という説明的演出ですね。

      しかも、そこから完全4度上行で平行短調のマイナートニック E- に行きます。
      頭で B- を鳴らした瞬間にはトーナルが Gメイジャーか Eマイナーか曖昧だったが、その途端に Eマイナーがトーナルだと確定します。
       
      3小節目でも B-/F# 、それが鳴り続けてる間は、Eマイナーのトーナルに居ます。
      ですが、機能和声の世界のマイナーの安定感よりは不確かです。
      何故ならば、和声短音階を使った B7 ではなく、自然短音階のダイアトニックな B- のままだからです。
      それだと、E というマイナートニックの特定性は薄く、いつでも、より強力なトニック帰着性を持つメイジャートニックのGに戻りたくなります。
      そこで、
      最後の2拍のピックアップ(アウフタクト)旋律をスイッチに、5小節目で Gメイジャーにガツンと行きます。
      6小節目の E- は Gメイジャーの第6度でしかありません。トニック的引力はもはや無い。
      で、
      この曲のウルトラC(古っ、w)が7小節目です。

      このナガレだと、8小節目にドミナントな和音が来るのが、期待される確率最高でしょう。
      すると、ヨーラッパ的に染みついた和声進行センスだと、
      7小節目には「A7」が来る、その期待値が高いはずです。
       
      そこに!「C」を持ってくるのが大発明!
      しかも、メロの音がA。結果的に「C6」。展開すれば A-。
      つまり、
      人の耳の期待感から「A7」!!!
      と思ってるところに A- の C♮音が衝突してブルーズフィーリングを生みます。
      C6 が鳴った途端の得も言われぬブルーズ感はそういった産まれ方なのでしょう。
       
      で、8小節目はドミナントの D7 、ドミナントと言う通り、順当にクラシカルに機能和声的に A’ 頭の Gコードに導きます。
       
      ヴォーカルとグルーヴが曲頭に戻ります。
      それも働いて、演奏されてるコードは G だが、ブルーズの聴感覚をフラッシュバックさせ、実際には G7 として感覚されます。
      以下、冒頭のAメロと同様。

      そう、ブルーズの世界では、機能和声におけるドミナントという概念は働きません。トニックはありますが。
      強いて言えば(機能和声での言い方での)サブドミナント的な、Ⅳ度とか♭Ⅶとかが、トニックに対してドミナント的な位置に来る確率が高い。
      「高い」というのは、♭Ⅲとか♭Ⅵとかもそこに居ることがあるからです。
      それは、「ンロール」が外れた以降の「ロック」を色々聴けば、沢山の例に触れられます。
       
      「ンロール」が外れて以来、黒人達はよりブルーズの具体化を洗練化させて行きました。
      ソウルというジャンル名で代表される時代に、新たな響きはまた拡がりました。

      キーがGだとして例えば、、
      G F C G
      以前はそこで終わってたものが、その動きの延長としてか、、
      ま、例えばですけど、
      ||: G7 F7 C7 G7
      Bb7 F7 D7 A7 :||

      なんてことにもなります。
      末端の A7 から頭の G7 に戻ってもさほど違和感は無いでしょう。
      ブルーズのスイッチが入ってるからです。
       
      機能和声的にはその A7 はスーパーサブドミナントだから、トニックに続いてもさほど衝突感は無い、とも説明できますけどね。

      、、、というわけで、
      長調/短調 だけではない感じ方・捉え方が「在る」とだけでも感じ取っていただければ幸いです。

  3. Scheveningen より:

    Aメロの説明は面白かったです。
    >冒頭の旋律 「ソ〜ソ〜ソ」 のすぐ下にハモリを付けるとしたら、
    >2音目をコードネームに沿うとしたら 「ファ」 でしょうか。
    >正解は 「ミ♭」 です。
    確かに、頭の中で考えたら、僕もミ♭だと感じました。
    >この演奏では 「G C G」 ですが、潜在的に 「G7 C7 G7」 と感じ取れます。
    頭の中でうろ覚えの原曲を思い浮かべてみると、僕も、7thが本当にどこかで鳴っているんじゃないかと感じたのですが、ちゃんと聴きなおしたら、確かに7thは入ってない。
    一方、Bメロの説明がちょっとわかりません。
    >B-/F# |E- |B-/F# | |
    と書いてあり、
    >コードは B- なのに、ベースはわざわざ「F#」を選んでます。
    とあります。Bマイナー オン F# という意味で合ってます? でも、Bメロ1、3、4小節目のベース音はBなのですが…

    • baritake より:

      Scheveningen さん、返信ありがとうございます!
      はい、確認しました。
      スタジオ版を聴いたら、そうですね、B- on F# ではなく普通にポールは B を弾いてますね。
      実は、
      https://www.youtube.com/watch?v=Yjyj8qnqkYI
      を iPhoneのスピーカで聴いたのに起因する聞き落としでした。
      ギターの一番低い音 F# が派手に鳴ってるんで(^_^;
      大きいスピーカーで聴いたら、なぜかえらくクラッシュしてるけど B に行ってますね。
       
      いずれにせよその箇所では F♮の居る世界から F# の居るとこに旅してるってことではありますね。
       
      ところで、聴き直して気付いたこと。
      ギターソロ、コードが G の所でもガッツリと Bb(ミ♭)を弾いてますね。
      これは、コードが Ⅳ7 でなく Ⅰ7 でも、ミ♭で通してる、
      つまり、
      いずれのコードの上でも Gドリアンというか Gマイナーペンタのイッパツで通してるってことです。
      (歌のメロディーは Bb でなく B を使うミクソリディアンのイッパツが基本で最後の1小節だけ Bb を、つまりドリアンでブルーになってる)
      Ⅰ7 の Gミクソリディアンに対しては Bb は ♭3 でコードの 3 との半音でブルーノートとして機能。
      Ⅳ7 の Cミクソリディアンに対しては Bb は ♭7 でインナーだが、D音はテンション、F音は 4 で強い不協和のはずだが、全体がブルーズとして響いてるので許容されている。
       
      ブルーズとして鳴っている限り、
       ・トニックがメイジャー系でも、短3度を含む(長3度を含まない)音階で旋律を組んでOK。
       ・Ⅳ7 では4度もアヴォイドとして響かないので、そこも Ⅰのドリアンないしマイナーペンタのイッパツで通過できる。
      というブルーズの特質の好例ですね。

      • Scheveningen より:

        A Hard Day’s Nightの Bメロ。https://www.youtube.com/watch?v=Yjyj8qnqkYI を改めて聴いてみました。

        > B-/F# |E- |B-/F# | |
        > G |E- |C6 |D ||

        7小節目のC6ですが、C6だとあっさりし過ぎているという印象があります。ここ、B♭の音も鳴っているように感じられるんじゃないですか。こんな感じです。
        https://www.pg-fl.jp/music/chord_d.htm?result=k%3B0%3B10%2C12%2C16%2C21#cd_main

        • baritake より:

          そこ、スタジオ録音版だとクッキリ b7th 鳴ってますね、正解です ^_^
           https://youtu.be/AMSiHdrHl0g
          ライブのだとなにがなにやら聴き取れません (^_^;
          C6 の 6 はメロディーの A音なんですが、
          アルバム版の音でコードネームを書くなら C7(13) ですね。

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