おすすめ教則本:フレッド・リプシャス「Playing through the blues」

ジャズのアドリブ教則本として猛烈な良書です。
これを皮切りに、世の中では地味だけど実はとても佳い本をポチポチ紹介していきます。

ブルーズ、その典型的フォームだけでなく和声的特徴を活かした様々なリズムアレンジの上で、
「喋れるようになるといいよ」
という言葉を沢山体験させてくれるエチュード集。

アドリブできるって?

ジャズのアドリブ=インプロヴィゼーションを「できる」とは、
メロディー楽器奏者にとっては、
「如何に旋律を次から次へと紡ぎ出すか、
  イカニモその場で思いついたかのように
   ツルツルと喋るように…」
そこが課題なのかと。

そう「喋るように」なのです。
ジャズに限らず、あらゆる音楽のスタイルで「喋れる」ようになるには、
その世界の「言葉」を知ればよい。

わたし譜面読めませんが大丈夫?

音楽教室に初めて来て
「私、楽譜を読めないんですが大丈夫ですか?」
と訊く人が多い。

ところが、アラビア語の教室に来て
「私、アラビアの文字が読めないんですが大丈夫ですか?」
と訊く人は居ない。

 ・聴き取れない
だから
 ・発語できない
のは当たり前で
 ・文字の読み書き
なぞ出来るわけが無い

だから、教室に習いに来るんでしょ?
読めないんですが…とは訊かないのは当然。
ですが、音楽教室の場合は訊いちゃうのですね。

「楽譜は生まれつき、あるいは中学校を出てるなら読めるもの」
と思い込んでる、からでないかな?
そんなの無理です。

小中学校で楽譜の読み書きができるような教え方をする先生は少ないと思います。
学校教育でツカエル英語が身に付かないのと同じなのでしょう。

言語習得のプロセス

言語習得は、読み書きからでは会話としてツカエルようにはなりません。
赤ん坊が辿るプロセスどおりに進めるのがよきかと。

つまり、
 ・浴びるように耳に入れる
 ・真似して発語してみる
 ・文法的組立を理解するようになる
 ・想念の言語化を試みる
 ・他人の想念を言葉から読み取れるようになる
 ・ファンタジーを構築&具体化する道具として使えるようになる
…といった段取りなのかと。

で、読み書きとは、、
 ・忘れないよう書き留める
 ・直接喋れない相手に伝える為に書いて渡す
 ・書かれた文字から言葉を読み取る

すなわち先ずは耳と口で会話言語能力を培っておかないことには、読み書きも充分には活かせないのかと。

、、、とここまで書いて、はて、、?

殆ど聞いたり喋ったりはなくても、文字を起点とした学習で言語能力は生まれ育たないもの、かな?

ん~、、想像できないや、、難しいんじゃないかな~、、そこは宿題っ。

音楽も外国語会話修得と同じ

音楽も言語と同じく、聴覚とリズムを媒体としたコミュニケーション・スキルです。
つまり、その「会話」と「読み書き」の習得は言語習得と同じプロセスを辿るものと思います。

音楽理論と言われるものの机上での学びは可能です。
ところがそこに、聴覚の体験が伴っていないと、音楽で会話できるようにはなりません。

とにかく
 ・聞く
 ・真似する
 ・
 ・・・

が無ければ、音楽的出来事を聞いて解釈したり、表現したりの力は育ちません。
もちろん、読み書きも「実際の音楽」と結びついた形ではできるようになりません。

机上での理論の読み書きから学ぶと、カタチとしての解釈はできるかもしれませんが、、
楽譜=音楽の文字、を見た途端に「音」が浮かばないなら、それは音楽を読み取ったことにはならず「会話」には繋がらない。

まずは「聞く」とにかく「聞きまくる」そして「聴ける」ようになるのが出発点なのかと。

なぜブルーズ?

この本はジャズを学ぶ入口の本です。
ジャズってなに?
ザックリと書きます。

白い人達が新大陸に渡って原住民を駆逐しつつ、南の大陸から黒い人達を奴隷として連れてきた。
その暮らしぶりはさておき、、
白い人達の音楽と楽器と、黒い人達の音楽感覚・体格・生活とが出会った。
そこに、白い人達には思いつけなかった音楽的に素敵な出来事が起こった。
それには白い人達も、真似するくらい夢中になった。
白くて賢くて商魂も逞しかった人がレコードやラジオを発明した。
またたくまに新大陸の新しい音楽は地球上に広く伝わった。

「素敵な出来事」には、地球上の色んな人達も夢中になったし、真似したいと思ったし、やってみたら、世界各地の色んなセンスを反映しつつそれぞれに素敵な出来事を起こす土壌だった。

素敵な出来事とは、
 ・ブルーズ(的な和声の諸現象)
と、
 ・黒い人だから思いついた形のシンコペーション
です。

ちなみに「ザックリ」を↓ではより詳しく書きましたので御参照くださいませ。
『明解!ツーファイブで使える音階 ~ブルーズの謎を解く~』
http://bit.ly/KT_blues_251

つまり、ジャズのみならずその後のR&Bもソウルもファンクもロックももも、、
それらの起源はブルーズにあるわけ。
もちろん、その影響下に無いポピュラー音楽は地球上に沢山ありますけどね。
とりあえず、合衆国があったから発生し派生した音楽の範疇で言えばってことで。

赤ん坊の最初の発語は多くの場合「おふくろ~」でなく「マンマ~」ですよね。
そこから少しずつ積み上がりますよね。

ジャズ以降のアメリカ影響下音楽で喋れるようになるにはブルーズの「マンマ~」から身に付ければ無理なく始まるし、その後も困らないんでないかな?

歴史の、なるたけ端緒から辿ろうってことです。

で、この本って?

「マンマ~」から始めて、新しい単語を足しながら、色んな環境での喋り方で体験を深められます。
模範演奏CDとカラオケ付き。

使い方。
 ・模範演奏を何万回でも聞きます、そして聴きこみます。
 ・メロディーを憶えます。
 ・リズム隊がナニをしてるかも憶えます。
 ・一緒に歌います。
 ・ベースやピアノやドラムも歌ってみます。
 ・歌えたら初めて譜面を見ます。

すると、
「書き表すとコウイウことになるのね!」
となります。
歌えているなら、譜面を見たらすぐに、玉の見た目と音とを対応させられるでしょう。
それが読み書き習得の佳い順番だと思います。

次に、
 ・聞きながら見ながら歌いながら指も動かす
…を何回でもします。
それができるならもう模範演奏通りに吹けるはずです。
で、
うまく吹けなかったら技術的困難があるわけで、

ナニが困難ポイントかを見定め、それを解決するような基礎練習を組立てて実行。
そうすれば上達するわけです。
うまく喋れるようになるはず。

そこまでくればブルーズの、つまりジャズの言葉でバンド内会話もできるようになってるはずです。
もちろん、少しずつ言葉数を増やしながら。

そんな勉強を効率よくできるような本です。

フレッド・リプシャスさんって?

ブラスロックの元祖というか最初にグラミー賞ヒットを飛ばしたバンド「ブラッド・スエット・アンド・ティアーズ」の初期メンバーで、サウンドを確立した名アレンジャー。
代表曲は”スピニング・ホイール”
https://youtu.be/TPkVEi3Woy0

血と汗と涙、って、、そこは深く考えない。
時代的には星飛雄馬の「巨人の星」と同時期、かな?
おっと、脱線っ (^_^;

調べてみたら、上の曲は1969年、巨人の星の最初の連載は1966〜71年でした。

筆者にとってはボストンのジャズ学校での恩師。
キャノンボール・アダレイ研究と真似をしてみろってアンサンブル授業の先生だった。
とにかく気難しくて恐い人だった。
後に思い返せば、ただひたすらに真面目でシャイな人だったわけ。

ブラスロックで名を成したけどその実、まっすぐにジャズな人。
本人のソロアルバムはどれもストレートなビバップ。
その点では歴史的には地味だけど、スイングのスピード感は一聴の価値ありかと。

90年代初頭に、アドリブ例題集みたいなCD付き教本をワーナー出版から出してる。
カッコイイけどなかなか歯応えある内容。
難し過ぎて一般的認知は低い。

90年代半ばに「ツーファイブ」に特化した本を書き日本語版も出てる。
が、割とアリキタリな中身で、実用性というか愉しみに欠けるものではあり。

90年代末に、セッションでよく取り上げられるスタンダード曲のコード進行をゾロっと並べて、喋れるようになるべきリズムに馴染みつつコード進行のガイドラインを掴む基礎練習をしつつ、いわゆるビーバップの典型的なメロディーと仲良くするような本を出した。
これは名著。日本ではATN出版から出てる。
その本はまた改めて紹介します。

今世紀初頭にこの本。
ようやくアドリブ初心者でも取っつきやすいメロディーから始まる、しかも「マンマ~」からって本を出してくれた\(^O^)/

彼が孫に見せるような笑顔を初めて見た気がします。
模範演奏を聴いてみたら、すっかりお爺ちゃんぽい音になっててシミジミ。
その音は「俺の音は真似しないで自分のスタイルを作れよ」って感じ。
90年代初頭の模範演奏での「どうだ!カッコイイだろ!」って感じとは大違い。

先ずは「マンマ~」から始めてみよっかなって思ったら是非どうぞ♪

 
☆アルト・バリトン向け

☆テナー向け

☆ラッパ向け

☆ボントロ向け

☆フルート向け

☆クラリネット向け

☆ギター向け

☆ヴァイオリン向け

 
ちなみに日本語版表紙の「耳を使ってジャズの基本を…」ってのは「使い方」に書いたようなことを過去何度も拙者が言ってきたのを反映してくれた、んだと勝手に思ってます~♪

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