マイルスの Solar と非和声音とブルーズ

マイルス・デイヴィスの「Solar」って曲について「5小節目の3拍目、この音はナニモノ?」って疑問をwebで見かけたので勝手に説明してみる。
結論を言えばそれは刺繍音、詳しく言えば「音階外非和声音も含む挟み込みダブル刺繍音の1形態」。

修飾音・非和声音・装飾音符

旋律の「核」となる音が、背景にある和声の構成音と一致する時
「あぁ、核の音は和声音なのね」
と感覚します。

ある和声にフィットする音階には必ず幾つかの可能性があり、作曲家により、演奏家により選ばれるもの。
クラシック音楽ならそれはおおかたダイアトニックスケール(5つの全音と2つの半音から成る7音音階)と呼ばれる範疇から選ばれる。

ジャズ以降の音楽ではダイアトニックとは呼べない音階群にも可能性は広がる。なので「アヴェイラブルノートスケール」って言葉が作られたわけね。
フィットするとして選ばれた音階の「中にある」が、和声の構成音ではない音高は「非和声音」。
詳しく言うなら「音階内非和声音」。

非和声音を使って核を飾り、よりリッチな旋律に仕立てる。
そんな風に非和声音が使われるとそれは「修飾音」と呼ばれます。

あ!大切なこと!
この手の興味で「非和声音」という単語を使う限りは、
「和声音に隣接した、和声音ではない音」
のことを指します。

非和声音の不協和が和声音の協和に「解決される」ってのは、隣接した音同士の「動き」によって感覚されるものなので。
和声の構成音でない音は全て非和声音、ではあるが、この手の話題をする時に限っては、
「ターゲットとする和声音と、それに隣接した非和声音」って「ペアとして」語るってことです。

ちなみに、
現在のクラシカルな楽典では「昔は修飾音と呼ばれたが、今は非和声音と呼ぶ」なんて記述を見かけるが、対象は同じでも指す意味合いの違う言葉なので、2つをちゃんと使い分けるがヨシ、と筆者は思ってます。

半音階は12の音高から成ります。7音音階だとすると、その中に含まれない音高は5つ。
それらを筆者は「音階外音」と呼びます。
それらを使って修飾するのも普通に行われます。

なので、
「音階内非和声音での修飾」「音階外非和声音での修飾」
と呼び分けるのがイインジャネ?と筆者は思ってます。

クラシカルな音楽で、登場する音階がダイアトニックスケールのみな場合には、
 ・ダイアトニック(全音階的_この全音階って明治時代の日本語訳は失敗作とは思うが)
 ・クロマチック(半音階的)
って呼び分けが一般的ですが、内か外かってのを直感的に表示するのは意味深いと思うわけです。
__表意文字である漢字を使う人だからではあろうが。。。

ちなみに、ここでは「和声の構成音は音階の中に全て含まれる」つまり
「ここでのアヴェイラブルノートスケールは、背景の和声に対して全くにインナー」
と仮定して話を進めてます。

以上を簡単に譜例で見える形にしてみますね。
修飾音の「種類名」も書いておくのでフ~ンと思っておいて下さい。

あ、

クラシカルな楽典だと、和声は三和音ないし四和音までを想定して話を進めるものですが、ジャズ以降の理論ではそれ以上の音高、つまりテンションノート(=上部構造=アッパーストラクチャ)も「構成音」として扱います。
が、ここでの話は三和音ないし四和音、つまりジャズ的に言えば「下部構造(ロウアーストラクチャ)」を構成音と決めて話を進めます。

ですが場合により、
旋律音が下部構造に対しては非和声音だとしても、それが「核」となるような鳴りかたをして、且つある程度以上に「持続」してる場合、その音高を含めて構成音と捉えるのが妥当となることもあります。

ところで、
「装飾音符」って似た言葉があります。
符頭に「ごく短い飾り付け」をしたり「音価中でのターン(小節_コブシ≅メリスマ)の形、特にバロック様式に基づいて」を示したりします。
クラシック音楽での、ある時代の様式に基づいた「やり方」を説明する言葉です。
それは現代でも、記述と演奏に活かされてます。

で、意味合いとしてはそういうことなのですが、
その実態は「非和声音による修飾」に他ならないってのが殆どなわけで、文章中での使い方や、意味の受取方には注意が要りますね。

ではお待たせしました、譜例です~

Screenshot
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不協和の解決、即ち緊張の緩和

…については本サイトで沢山書いてるので詳しくは省きます。

本稿では、背景にある和声の構成音と一致してれば協和、一致してなければ不協和、としておきましょう。

不協和の際に起こる
 ・居心地の悪さ
 ・情報量の豊かな感じ
 ・嵐のようなザワザワ
から、
協和の
 ・自分ちに帰って来たようなホッとした居心地
 ・空虚とも言える感じ
 ・波立たぬ凪の静けさ
に移行する様子、それを「解決」と呼びます。

西欧音楽の「機能和声法」とは、不協和と協和を行き来して、音楽の時間を進めていく、その様子を愉しむような作曲法のことです。
もちろんブルーズ〜ジャズ以降のアメリカ音楽でもその概念と出来事は活用されてます。

機能和声的音楽との対義語は旋法的音楽。
いわゆるモーダル。

そこでは、旋法の色彩が重要で、且つ数種類の旋法を渡り歩き、違いを移ろいを愉しんだりもする。
旋法の色彩の違いは明暗など表現される。それは自然倍音列との不協和具合で測れます。

なので、より不協和な旋法と協和的な旋法を行き来するなら、機能和声と同様に時間を進めていく表現ともなりうる。

非和声音の和声的効果

音階外音が使われたら必ず「一瞬の転旋or転調」が起きてると思ってよいでしょう。

クラシカルな音楽で長調なら「臨時記号が出てきたら一瞬であれ転調か転旋だな、既に明らかな転調が起こってない限り」と思ってよいです。(転調と転旋については後で詳しく書く予定)

非和声音は背景の和声に対して不協和=緊張を生むものですが、同時に
「もしそこをハーモナイズするなら、こういう和声になるんだろうな」
って欲求も生むものです。
例えば…

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非和声音が音階内音なら、その音階に含まれる和声でハーモナイズできる可能性は高い。けど、そうでない(=音階外音を使った=一瞬の転旋or転調を暗示する)和声づけをする可能性もあります。

音階外音なら必ず、素の音階に「含まれない」和声でハーモナイズすることになります。
そのことが先述の「臨時記号が出てきたらほぼ必ず転調or転旋」ってことに繋がります。

こういった非和声音のハーモナイズは、ビッグバンドのセクションライティングでは普通に行われるし、ピアニストやギタリストもよく行いますね。

ただ「その非和声音は和声に対して緊張=テンションを生むもの」って作曲の意図が明瞭な場合は、わざと放置して、その和声音が生む新たな和声感を味わうのがベターなこともあります。

転旋 or 転調、モーダルインタチェンジとは…

転旋_ 主音は変わらずに、音階内の音程構成が変わる=旋法が変わること。
転調_ 主音が変わること。変わった先の旋法タイプは問わず、とにかく主人公の音が変わること。

ジャズ理論では「モーダルインタチェンジ」という言葉をよく耳にします。
曲中で「一時的に」別の旋法の和声や旋律音遣いを借用してから、割とすぐ元に戻るってこと。
インタチェンジって言葉から察するに「相互に行き来する」感じが込められてるのでしょう。
筆者は「同主異旋借用一時転旋」などと邦訳すべぇかと思ってます。

転旋してずっとそのまま暫く元の旋法に戻らないなら、単なる転旋と呼ぶしかないのでしょう。

一時的な転旋は旋律「のみ」にも起こります。
和声はそのままでも別の旋法を用いてニオイを変えられます。
古典的にはブルーズの世界ではそれがアタリマエの出来事です。

モダンなジャズでは、フリジアンを使うはずな m7 コードでドリアンを使ったり、
ドミナントコード上でも様々なオルタレイションだったり、「アウト」って手法に活かされたり。
或いは、ポリモーダル(複旋法)な作曲なども有り得ます。

ちなみに、
和声と旋律、とか、対旋律同士で「主音が違うと明瞭に聴き取れる音階や和声」を同時に使うのはポリトーナルと呼ばれます。

さてと Solar

お待たせしました。件の曲に触れます。
まずコード進行。

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この曲は「ブルーズ」です。
ブルーズとは意味の広い言葉ですが、この場合は楽式としてそう呼ばれるってこと。

楽式としてのブルーズとは…、
12小節とは限りません、が、そう作られてきた確率は高い。

1段を4小節で改行する、として話を進めます。

1段目の左端がトニック=主和音。
2段目の左端で4度上に転調。
その後、何小節であれ、結局は最初のトニックに落着させる。

楽式としてのブルーズの条件はそういうことです。

最初のトニックはメイジャーでもマイナーでも構いません。

古典的ブルーズでは「いわゆるブルーズらしい響きを活かしやすい、というかブルーズのスイッチを入れやすいミクソリディアンモード、あるいはブルーズマイナーorブルーズメイジャー音階をトニックとする、ので、コードネームとしては ○7」

ブルーズ音階を主調とする場合、その旋律と和声は西欧音楽理論ではメイジャーともマイナーとも説明の付かない響きとなります。
例えば「どっちかといえばメイジャー」とかって感じになります。
「ま、これは明らかにマイナーだよね」ってコードや音遣いを選んだ場合は「マイナーブルーズ」と呼びます。

2段目の4度上がった時のモードもメイジャーでもマイナーでも構いません。

てなわけで、この曲は
マイナーブルーズとして始まるけど、4度上がった時にはメイジャーになる、で、グニャグニャして結局は頭のマイナートニックに導いてる。
って説明できます。

産まれながらにメイジャーとマイナーが混在してる「ブルーズ」ってものを、マイルス的に説明した作曲と言えるでしょう。

ちなみに、ブルーズについての考察まとめは最近↓でしてみました。御参照くだされ。

ブルーズの転旋的解釈と作曲

少し寄り道します。
さきほど、2段目アタマで4度上に転調と書きました。
ですが、古典的で実用的な別の考え方もあります。
話を解りやすくするため超原始的ブルーズのコード進行を挙げます。

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1段目が Cミクソリディアン(形としては長調の第5モード)とすると、
2段目で完全4度上がると捉えるならそこは Fミクソリディアン。
だが、その転回形の Cドリアンと捉えるならば、
「1段目は Cのメイジャー系ブルーズ音階、2段目は同じく Cをトニックとするマイナー系ブルーズ音階」
と受け止められます。
つまり、1段目で使ったモチーフがあったとして、その「長3度の音=メイジャー系ってことを表示」を半音下げて短3度の音とするだけで、それ以外の音はそのままで、

「あるモチーフを、ミクソリディアンからドリアンに転旋させた」
ってことになります。

同じ音高位置、同じ形、で、違う旋法の色彩を示せる。
それは作曲法として、ある種の統一感を持たせるのに成功したとも言えます。

その手の作曲はシカゴやカンサスでジャズが盛んだった頃、例えば初期のカウントベイシー楽団とかでよく聴かれる、いわゆる「リフもの」と呼ばれる曲に見られる方法です。

3段目のアタマは、F7 の全音上の G7 なので、Cドリアンの全音上、つまり Dドリアンで紡げばよいわけ。
ま、実際の曲ではそこで全く違うモチーフを使うのが定石ですが、下の譜例では同じモチーフで押し通してみます。

文章の組み立て方で「起承転結」ってのがありますが、ブルーズの場合、1段ごとに「起承結」になってるってことじゃないかしら?
「○○と掛けて、△△と解く、そのココロは…」みたいな。
その点、二グロスピリチュアルなど詩や文学の勉強もしてみなきゃって思ってます。

リフものをちょいと捏造してみます、こんな感じ…

Screenshot

もし「4度上に転調するぞ式」で↑の曲を書くとすると↓

Screenshot

つまり、見た目も気持も、忙しく上下に右往左往しなくてよい。
それはアドリブの際にも便利な気持かと。
「この曲全体としてのトニックはとにかく Cなのだ」って気持も持ちやすい。

、、、なのですが、
Solar の場合は1段目後半から2段目アタマで、クッキリと Fメイジャーに転調しちゃってるので、
そこで強いて「Cミクソリディアンなのだ」って旋律造りをする気持にはなれません💦
なので、Solar にそのまま応用はできません、、残念(×_×)
てなわけで本項の話は、原始的ブルーズを理解する話題の1つと思っといてください。

Solar の和声進行と転調の様子

あ! さきほどコード進行を挙げておきながら、ブルーズの話に終始してしまいました💦
あらためて、いわゆる分析というか調性判別的なことを書いときますね。
先程と同じ譜例ですが…

Screenshot

1~2小節目
 Cマイナー。トニックマイナーなのでメロディックマイナーを選ぶのが定石。
 特にブルージーな節回しを意図するならドリアンもアリ。
 その際「本来そのコードは C7(#9) なのだから」って気持で節回しするとブルージーに聞こえやすい。
3~6小節目
 Fメイジャー。
7~9小節目
 E♭メイジャー。
10~11小節目
 D♭メイジャー。
12小節目
 Cマイナーに向かうドミナントを 2-5分解。
 ザックリと言えば、Gミクソリディアン♭9♭13(=Cハーモニックマイナーの転回形)
 或いは、Gオルタードとか…、
 あ! 
 マイルスさん本人は Dø を「♮2」でやってら!
 その小節全体を見ると彼は…、
 Cから旋法を読むなら「C Hindu = C ミクソリディアン♭6」でやってる。
 つまり、Cのメイジャー系の音階ってこと。
 それって、よくあるのよねビバッパーのやり口として。
 マイナーに向かうドミナントでも、メイジャー系の音遣いってな。
 仔細に見れば、Dø で D ロクリアン♮2(Fメロディックマイナーの転回形)、
 G7 で G オルタードってこと、かな?
 あるいは、そのツーファイブ全体を、
 D ディミニッシュト(俗に言う G コンディミ)で演ってる、とも言える、かな?

旋律の核を取り出す

今度は旋律を観察します。
先ずは Solarの「旋律の核」を取り出してみます。

Screenshot

これだけだとツマラナイ、けど充分に美しさの核心を示してますね。
もうお察しの通り、この核を様々に修飾すると、リッチだったり興味深い旋律となるわけですね。

あ、この見た目は、アドリブの授業で聞いた「コード進行のガイドライン」ってのと同じだな。
アドリブもこういった核の認識が大切で、それに飾り付けをしてくんだよ、って説明だったな。

旋律の修飾を説明してみる

Screenshot

説明を明瞭に掴みやすいよう、シンコペイションを排した形で書きました。
マイルスさんの「Walkin’」ってアルバムの1〜2コーラス目を題材に書き取りました。
各地で起こってることを理解してみましょう。

ドミナントがツーファイブ分解されてる箇所、
1&2段目では「1つのドミナントコード」として分析。
3段目2小節目以降、サブドミとドミとで別のコードとして分析しました。
と、
3段目の1小節目_ Eb6 って書いてもよかったのですが2拍ずつ分けて、後半の椅音を見えやすくしました。

① 音階内音のみでの二重刺繍音
② 分散和音
③ 経過音とは言い難いが次のコードトーンへの音階的アプローチ
 (後日追記_芸大和声ではそれ↑も普通に経過音と呼ぶようですね)
④ 音階外音も使った二重刺繍音
⑤ 経過音(音階内音での)
⑥ 椅音から和声音への解決(音階内音のみ)

※なお、この図版は学術的説明の目的のみに作って使ってます。
 (もし著作権者からの要請があれば図版を削除し解説法を変えます)

てなわけで…

これで Solar の2段目3拍目の理解には充分でしょう。
最初その疑問を見た時、直感的にブルーズでの説明ができるかとトキメイタが、その必要はなく西欧楽典的説明で事足りました💦

🌷🌷🌷🌷🌷

後日追記…

この記事、自分の記憶だけでツルツルと書いてしまったが、、
wikipedia 見たら、いわゆる芸大和声にのっとって & それとは違う伝統的分類法も別立てで…、
あ、ジャズ理論的な言葉にも軽く触れてるのね、、
まぁ!よくまとまってること!素晴らし!
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9D%9E%E5%92%8C%E5%A3%B0%E9%9F%B3

刺繍的椅音・経過的椅音・後部椅音、
すっかり忘れてたわ💦
嗚呼、経過音は着地が別の和声でも分け隔てなくそう呼ぶのね…、
うわ、
掛留音、下方掛留音、先取音もすっかり忘れてた、、よく使うのに💦
ふむ、
逸音、の意味合い、、間違えて覚えてたかも、、勉強しなおしてみよう。
リズムに対しての現象の変化の説明には「アクセントの有無」って言葉を使うものなのですね、、
ふむふむ、まだまだ勉強は愉しい(^_^)

と、メモ書き…

刺繍音_ a neighbor tone 直訳に近いのは「隣接音」ですね。
     an auxiliary Note って呼び名も刺繍音のことだそうで。
     他の修飾音をそう呼ぶ例をよく見かけるのでメモメモっ(><)
二重刺繍音_ changing tones
椅音__ an appoggiatura
経過音_ a passing tone
掛留音_ a suspension
下方掛留音_ a retardation
先取音_ an anticipation
逸音_ an escape tone , échappée
保続音_ a pedal point , an organ point 

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